高市早苗首相の「存立危機事態」発言後、日本の主要観光地での中国人観光客は以前と比べ減少して見えた=11月30日午後、東京都台東区(成田隼撮影)
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高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁に反発し、中国政府が11月14日に日本への渡航自粛を呼びかけてから約半月が経過した。一部では団体客のキャンセルなど影響も出ているが、業界は比較的、冷静に受け止めている。インバウンド(訪日客)の中国依存からの脱却も進む。
影響が目立つのは中国人の団体客が多い関西地方だ。大阪観光局によると、大阪府内のホテル約20社で12月末までの中国人の宿泊予約の50~70%にキャンセルが発生した。一方で、都内のホテル業者からは「今のところ大きな影響はない」との声が多く聞かれ、状況に地域差がある。
当面の短期的な影響は避けられない。特に中国の旧正月にあたる2月の「春節」での落ち込みを懸念する声があがる。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は「春節商戦は厳しい。春までの影響は確定しており、回復は早くても半年から1年先ではないか」とみる。
東京、大阪、京都では高騰が著しかったホテルの宿泊価格が下がり始めており、鳥海氏は「今後、都市部はオーバーツーリズム(観光公害)の緩和と日本人客の回復が期待される。ただ、春節の落ち込みを補うことにはならない」とみている。

カギを握るのは中国依存からの脱却だ。日本政府観光局によると、今年1~10月の訪日客数は3554万7200人。国・地域別では中国が約23%で首位だが、2019年の約30%からは減少した。
直近の10月には韓国や台湾、米国など13の国・地域が10月として過去最高を記録。中東は前年同月比33・8%、ドイツは同29・2%の伸びをみせている。
中国人客減っても「危機感ない」
中国政府が自国民に日本への渡航自粛を求めてから2週間あまり。国内の観光地から中国人客が消えつつあるが、インバウンド(訪日客)をターゲットにしていても、この状況を冷静に受け止めるホテルや飲食店は少なくない。欧米や東南アジアなどにも客層が広がっていることが共通しており、観光ビジネスを狙い撃つ「チャイナリスク」を巧みに回避していた。
東京・浅草の雷門前で人力車夫をする岩崎櫂(かい)さん(20)によると、これまで3割程度を占めていた中国人客が姿を消したという。中国語はできないが、英語での接客が得意で「欧米や東南アジアなどの人により力を入れて対応している。売り上げにそこまで変化はない」と話す。

人気スイーツ店「おいもやさん興伸」で働く三橋由香利さん(40)は「少し前まではお客さまのほとんどが中国人だったが、最近は韓国や欧米の方が多い」。中国人客が減っても、他国からの観光客や修学旅行生らで行列ができているという。食べ歩きグルメの「浅草メンチ」のアルバイト男性(23)も「欧米からの観光客が多く、売り上げはほとんど変わらない」と語る。
「万雷ホテル」支配人の南隼さんは「(中国人客の)キャンセルが出たとしても、すぐに埋まる」と説明する。中国政府による日本への渡航自粛要請が報じられて以降、中国人観光客は目に見えて減少したが、インバウンド客の中心は米国や豪州からで、「危機感はない」と言い切る。
浅草以外でも影響は限定的との声が上がる。

帝国ホテル東京(東京都千代田区)は、宴会のキャンセルが少数あったものの「他のホテルに比べれば影響は少ないのではないか」とみる。
ホテル椿山荘東京(文京区)や「ワシントンホテル」などを運営する藤田観光(同)も「今のところ大きな影響はない」ととらえる。同社では、新型コロナウイルス禍で中国からの客足が鈍っている間、欧米、オーストラリアへのセールスを拡大したという。
筆者:織田淳嗣、市野澤光、永礼もも香、長谷川毬子(産経新聞)
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