三菱UFJ銀行京都支店の小杉支店長(杉浦美香撮影)
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訪日外国人数は今年、毎月過去最高を記録している。京都はその最前線だ。一方、オーバーツーリズムも問題になっており、今年4月に着任した三菱UFJ銀行最大の支店である京都支店長、小杉裕司氏に展望を聞いた。
逆風と追い風
「インバウンドの増加は顧客にとって追い風と逆風があり、まだら模様になっているが、総じてプラスであることは間違いない」と小杉氏は話す。
インバウンド向けの設備投資が好調な一方、意外なのは和菓子などの菓子の土産物が需要に結びついていないこともあるという。
京都では、ゴミのポイ捨てや交通渋滞など、オーバーツーリズムが市民生活に影響している。このため市は来年3月から、宿泊税の上限額を現状の1泊千円から最高1万円に引き揚げることを決定した。
「博物館や観光施設の入場料の外国人と自国民との二重価格を導入している国もある。日本でも民間企業では導入している例も聞く。我々にとっては、インバウンドをどうマネタイズしていくかということが重要だ」と話す。

京都の強みを掛け算に
京都は伝統文化に基づいた食の宝庫でもある。
「掛け算を試み、大学発のスタートアップ、行政もつなげたい」
京都は全国有数の大学都市だ。今年、京都で2人がノーベル賞を受賞、これまでも京都にゆかりのあるノーベル賞受賞者を輩出してきた。神社仏閣をはじめとする伝統文化から先端産業まで幅広い。
「京都にはユニークなクラスターがある。京都のアセット(資産)を生かして、産業投資につなげ、社会実装することが大切だ。地方創生のモデルケースになるはずだ」
三菱UFJ銀行が中心となって組織した革新的な観光産業を支援する「関西イノベーションセンター(MUIC)」が民間会社・行政などと共同で、二条城や平安神宮、平等院などを舞台にしたデジタルアートイベントを毎年、開催。今年10月には、MUICの京都支店を開設した。

行内で社会実装するプロジェクトを募集したところ、60にのぼる応募があったという。
「アイデアの中には京都の伝統文化の維持・発展に資するものもある。(企業版)ふるさと納税を活用するなど何ができるかを柔軟に考え、来年には社会実装、実証実験の第一号をお披露目したい」と意欲を見せる。
日本の強み「食」をさらに世界レベルに
小杉氏は京都支店長の前はケミカル・ウェルビーイング部の部長として、食に関する社会課題解決について情報発信してきた。
「米国にはCIA(The Culinary Institute of America)、スペインではバスクカリナリーセンター(BCC)があり、4年制の大学で食をマネージメントも含めてきちんと教えている。日本はまだ、食、料理に関する大学教育では行われていない。日本にもこうした食のアカデミアがあってもよいのではないか」と提言する。
和食は、2013年にユネスコ世界無形文化遺産に登録された。登録のための活動に貢献したのがここ京都だった。しかし、日本の和食は健康にいいと世界的に思われているが、その効能を科学的に示した論文は、同様に2010年と一足先にユネスコ文化遺産に登録された地中海料理と比べると、圧倒的に少ないという。
「日本の食は世界で尊敬されているが、発信の仕方は科学的とはいいがたい。疫学調査を行い、科学的に和食の良さを発信することが必要になっている」と語る。
ゆかりの京都から世界に発信
小杉氏は京都市出身で、京都支店勤務は2度目となる。
「京都は2兆円規模の売上の上場企業から寺社仏閣、アカデミア、茶道華道など幅広い。コミュニティの絆も強い。全方位的に関わり、信頼を得ることが我々の強みにもなる」と話す。

京都は格式が高く気後れすると思われがちなことについて、「京都は新しい価値を持ちこむことにウエルカムな地域だ。我々は黒子だが、インバウンド効果をマネタイズして、日本の力としていきたい」と締めくくった。
筆者:杉浦美香(Japan 2 Earth編集長)
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