歌舞伎役者の半生を描いた映画「国宝」が邦画実写作品で興行収入歴代1位となった。映画をきっかけに、日本の伝統芸能の魅力に目を開かれた人も多いのではないか。
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映画「国宝」より

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歌舞伎役者の半生を描いた映画「国宝」が邦画実写作品で興行収入歴代1位となった。22年ぶりの記録更新という快挙である。

映画をきっかけに、日本の伝統芸能の魅力に目を開かれた人も多いのではないか。

歌舞伎の興行を担う松竹によると、映画公開後の7~10月の新規客は昨年同時期より3割増となり、特に30代以下の若年層が増えたという。

「難解」などのイメージから若い世代に敬遠されがちだった伝統芸能への関心が高まったことは喜ばしい。

これを歌舞伎のみの一過性のブームに終わらせぬよう、関係者は、伝統芸能の魅力を効果的に発信し、担い手を養成していく努力を続けてもらいたい。

しかし、そのための環境が整っているとは言い難い。伝統芸能の聖地といえる国立劇場は、老朽化を理由に2年前に閉場したままだ。

国立劇場

11月25日には歌舞伎役者で人間国宝の片岡仁左衛門さんらが文部科学省を訪れ、国立劇場の早期再開場を求める要望書などを提出した。

昭和41年に開場した国立劇場は、歌舞伎などで全幕上演する「通し狂言」や埋もれた作品を蘇(よみがえ)らせた「復活狂言」を行ってきた。檜(ひのき)舞台としての役割だけではなく、次代を担う人材の養成にも力を入れてきた。

劇場は建て替え工事の入札が2度にわたって不調となった。文化庁は計画を見直し、令和15年の再開場を目指す方針を明らかにしたが、10年にも及ぶ空白は、大きな痛手となろう。

仁左衛門さんらの要望書は、劇場の育成機能にも言及し、修練の結果を発表するホームグラウンドがないことによる損失は計り知れないと訴えた。

歌舞伎などの舞台芸術は、その芸を披露する「場」があってこそ成り立つ。演者は観客の心を芸の力で動かし、観客が返す反応や拍手が演者に響いて、独特の一体感を生み出す。

門閥外の歌舞伎俳優だけが出演する「稚魚の会・歌舞伎会合同公演」の舞台から、舞踊「棒しばり」(国立劇場提供)

政府は仁左衛門さんらの訴えを真摯(しんし)に受け止め、早期の再開場に力を尽くしてほしい。

大阪の歌舞伎の拠点劇場である「大阪松竹座」も老朽化を理由に来年春の閉館が決まった。歌舞伎や日本舞踊に欠かせない花道を備えた劇場は限られており、他の劇場での代替は容易ではない。官民の知恵を結集し、存続を目指してほしい。

2025年12月8日付産経新聞【主張】を転載しています

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