裁判所から出る黎智英氏を乗せたとみられる車両=12月15日、香港(共同)
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香港紙「蘋果日報」(発行停止中)創業者、黎智英(れいちえい)(ジミー・ライ)氏(78)が、香港国家安全維持法(国安法)違反などの罪に問われた裁判で有罪判決を受けた。量刑は後日言い渡されるが厳刑が予想される。国安法の最高刑は終身刑だ。
中国の習近平政権が香港政府を通じて、国安法を武器に断行してきた言論弾圧について司法が追認した形だ。判決は言論・報道の自由を否定し、政治的な動機に基づいたものであり、断固として容認できない。
そもそも、言論や集会の自由など基本的人権を侵害する国安法に基づく逮捕や裁判自体、認められるものではない。かつては「一国二制度」の下、言論などの自由や法の支配があった香港が完全に中国化してしまった現状を深く憂慮する。

判決では、検察側が「扇動」の証拠として挙げた161点の蘋果日報の記事などについて、中国共産党や中国、香港政府への「深刻な敵意と偏見を一貫して示している」と断じた。
弁護側はこれまで「記事は政府への憎悪を煽(あお)ることを目的としていない。進歩と改善を求めるための正当な批判だ」と主張してきたが、今回の判決はそれを退け、言論の自由とともに、政府の監視役でもある報道機関の役割を否定したに等しい。
これでは香港には中国本土同様、官製メディアしか存続が許されなくなる。香港記者協会が判決に対し「極めて遺憾」との声明を発表したのは当然だ。

ルビオ米国務長官は判決について「言論の自由やその他の基本的権利を守ろうとする人たちを沈黙させる」ために、見せしめ効果を狙ったものだとの見方を示した。「1800日を超える収監によって黎氏の健康状態は著しく悪化している」として中国政府に釈放も求めた。
黎氏の家族によれば、糖尿病だけでなく心臓も患っている黎氏は最近、目に見えて体重が減って衰弱し、爪は剝がれ落ち、歯は腐り始めているという。
黎氏は詐欺罪で禁錮5年9月などの判決を受けている。さらに重刑が科されることは「死刑判決に等しい」と家族は各国政府に中国への働きかけを求めている。極めて深刻な人道問題である。日本を含む国際社会は〝良心の囚人〟である黎氏の早期釈放を求め、中国にこれまで以上の圧力をかけるべきだ。
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2025年12月17日付産経新聞【主張】を転載しています
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