大分市や伊勢崎市で起きた危険運転による死亡事故で、いずれも過失運転罪で起訴されたものの、遺族の署名活動などを経て、より法定刑が重い危険運転罪に訴因が変更された。危険運転致死傷罪は故意犯の傷害致死罪と同等であるとして、司法の側に適用への躊躇があるとされるが、遺族や社会には弱腰ともみえる混乱へのいらだちがある。
Dangerous driving panel

危険運転致死傷罪の見直しを議論する法制審議会の部会

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大分市の一般道で令和3年、時速194キロで走行する乗用車が右折車の男性を死亡させた。群馬県伊勢崎市では6年、飲酒運転のトラックが対向車の3人を死亡させた。

いずれも過失運転罪で起訴されたが、遺族の署名活動などを経て、より法定刑が重い自動車運転処罰法の危険運転罪に訴因が変更された。

こうした司法の混乱は危険運転の基準の曖昧さに起因した。その明確化を目指し、法制審議会が高速度と飲酒の数値基準の試案を示した。

制限速度60キロ超の高速道路などでは60キロ、それ以下の道路では50キロを超過した場合に一律適用する。飲酒の数値基準は呼気1リットルあたり0・5ミリ以上などとなり、来年の通常国会での法改正を目指す。

9月に示された試案では高速度、飲酒それぞれに2種の数値案を提示していたが、いずれもハードルの高い、加害者に甘い方の数値が採用された。

背景に、法定刑の上限が拘禁刑20年である危険運転致死傷罪は故意犯の傷害致死罪と同等であるとして、司法の側に適用への躊躇(ちゅうちょ)があるとされる。

だが極端な高速度や飲酒運転は、重大事故への直結を認識できる「未必の故意」にあたり、逡巡(しゅんじゅん)の必要はないはずだ。数値の妥当性については、なお疑問の声が上がるだろう。

足立区梅島でひき逃げ事件が発生し、事件を起こしたとみられるトヨタ認定中古車を調べる警察官ら=11月24日午後、東京都足立区(松井英幸撮影)

数値が明確化されたことで、基準以下のスピードなら重罪を免れると誤解を生む可能性もある。試案には「重大な交通の危険の回避が著しく困難」な高速度については、数値を満たさなくても処罰対象になることも盛り込んだ。ただしこの場合も数値基準に「準ずるものに限る」とされ、この解釈をめぐっては新たな混乱も生みかねない。

飲酒運転についても道路交通法で免許取り消しは1リットルあたり0・25ミリ以上であり、その倍にあたる0・5ミリ以上の数値基準は甘すぎるとの批判がある。

危険運転罪は東名高速道路で飲酒運転のトラックが女児2人を死亡させた悲惨な事故をきっかけに平成13年に創設された。遺族と社会の怒りが生んだ法律であり、法改正の求めの背景には、司法の弱腰ともみえる混乱へのいらだちがある。

法制審の試案がこうした声に十分かなうものであるか、さらなる再考を求めたい。

2025年12月11日付産経新聞【主張】を転載しています

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