Ghosts in the Neighborhood

 

 

ロシアは旧ソ連の独裁者スターリンの「北方領土不法占拠」という国家犯罪にいつまで固執し続けるのか。被害者の日本は択捉、国後、色丹、歯舞の四島返還の歴史的正義の旗をなぜ自ら降ろしてしまわなければならないのか。

 

2月7日は令和最初、通算40回目の節目の「北方領土の日」だ。今年で戦後75年もたつのに、戦後最初に被った国家主権・国益喪失事件である北方領土問題は解決のめどさえ立っていない。その理不尽な現実を国民一人一人が直視し返還に一丸となるべき時だ。

 

安倍晋三首相は、7日に東京で開かれた「北方領土返還要求全国大会」で、北方領土返還に向けた交渉を前進させると述べたが、今回も昨年に続き、北方四島がロシアに「不法に占拠された」との表現を2年連続で使わなかった。ロシアの顔色をうかがうのではなく、ロシアの異様性を国内外に広く発信してほしい。3日の参院予算委員会で首相は「四島は日本が主権を有する島」と明言した。大会の場でも力説すべきであった。

 

 

領土交渉の破綻認めよ

 

しかし残念ながら、安倍政権は対露譲歩に転じたとみられている。一昨年11月、ロシアのプーチン大統領とのシンガポールでの首脳会談で四島全体の7%にすぎない歯舞、色丹の2島返還をうたった昭和31年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約交渉を加速させる-ことで合意したからだ。

 

四島は1855年2月7日に調印された日露通好条約で日本領土となった。政府はこの日を昭和56年1月の閣議了解で「北方領土の日」と定めた。四島は他国に帰属したことは一度もない固有の領土だ。ところが、スターリンは終戦直前、日ソ中立条約を一方的に破り、日本がポツダム宣言を受諾し、降伏した後で四島に侵攻し、火事場泥棒的に不法占拠した。

 

日露領土交渉はシンガポール会談以降、実質的に破綻したといわざるをえない。ロシアは相手が弱腰に出ると、足元を見て嵩(かさ)にかかって高飛車に出てくる。いまや、「第二次大戦の結果、北方領土は正式にロシア領になったと認めない限り交渉には応じない」「平和条約には領土問題は含めない。領土は条約締結後に話し合う」などと言いたい放題だ。「領土交渉の前提として将来の北方領土に米軍基地が置かれないことを文書で確約せよ」とまで要求している。

 

 

「対独戦勝記念日」参列するな

 

谷内正太郎前国家安全保障局長は1月下旬、BSフジ番組でロシア側が領土問題を盛り込まない無条件の平和条約締結を求めている事実を認め「何らかの前進をみるためにほかにやることがあるのかというと、ない」と断言した。

 

日露間では「共同経済活動」の難交渉が続いているが、これ自体が領土問題の障害になっているともいえる。この間もロシア側は四島海域で日本漁船を相次いで拿捕(だほ)し、罰金まで科している。

 

厚かましいことに、プーチン大統領は安倍首相に5月9日の対独戦勝75周年式典への招待状を送ってきた。スターリンがヒトラーを打ち破った日だが、第二次大戦はもともと、両独裁者が独ソ不可侵条約で結託し、東西からほぼ同時にポーランドを侵略したことが発端ではないか。首相がロシアの勝利を一方的に祝う手前勝手な式典に参列すれば、スターリンの四島占領を含む一連の戦争犯罪を認めることになってしまいかねない。参列はきっぱり断るべきだ。

 

 

展示館の国際的PRを

 

1月下旬、内閣官房が運営する「領土・主権展示館」が東京・霞が関で再開した。昨年まで日比谷公園にあったものを7倍の広さに拡充・移転した。従来展示していた韓国が不法占拠する竹島問題、中国が領有を狙う尖閣諸島に新たに北方領土問題が加えられた。

 

昨年来、安倍政権が避けていた「不法占拠」「日本固有」などの用語も堂々と使われ、歴史的な経緯や現状をビジュアルも含めたふんだんな資料でわかりやすく解説している。

 

ロシア外務省はすぐさまモスクワの日本大使館員を呼び出し、「前向きな雰囲気を作ろうとする日露首脳間の合意に反する」などと抗議した。ロシア側の素早い反応を見れば、展示資料がいかに真実を物語っているか分かる。

 

国会議員はもちろん、在日露大使館や各国大使館、留学生、来日観光客もぜひ一度見学して真実を知ってほしい。全国の児童、生徒の修学旅行の必見スポットにするなど、幅広く利用される方法を考えるべきだ。北方領土問題は日露2国間にとどまらず、戦後世界に残された国際問題なのである。

 

 

2020年2月7日付産経新聞【主張】を転載しています

 

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