ゴーグルを着けてXR作品を鑑賞する「イマーシブ・ジャーニー」の館内。車いすでの体験も容易だ=横浜市西区(山沢義徳撮影)
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ゴーグルを使って現実世界と仮想空間を融合させる「クロスリアリティー(XR)」技術を用いたエンターテインメント施設「イマーシブ・ジャーニー」(横浜市西区)が、12月で開業1年を迎えた。「古代エジプトの謎」や「印象派絵画の誕生」がテーマのコンテンツを提供し、12万人以上を集客する人気スポットに育った。当初は新技術への関心が強いマニア層を引き付けるかと思われたが、今では女性客や熟年層、高齢者も含む家族連れが目立つように変わってきた。
技術への関心でなく
「ここにオープンして正解だった」と手応えを語るのは、同館を運営するXR企画会社「シネマリープ」(東京都品川区)の大橋哲也代表。同じフロアで同時に数十人が歩き回るという体験型コンテンツの特性から1千平方メートル級の広さが必要だが、都内では適した物件が見当たらず、横浜で開設を決めた。
しかし横浜駅直結のビル内という便の良さもあり、客足は関東一円から集まった。意外だったのは、客層の広がりだ。「オープン当初はガジェット(最新の電子機器など)の好きな若い男性客が中心だったが、徐々に変化してきた」。

年間実績では女性客が約65%。特に40~60歳代の割合が高かった。一体なぜなのか。同社の待場勝利取締役はこう分析する。「XRという新技術への関心というより、文化の面。古代エジプトや印象派というテーマ自体に興味を持って来館されている」。
フロアを見渡すと、同伴者に車いすを押されながらXRを楽しむ高齢者の姿もちらほら。たとえ移動が難しい人でも〝時空を超えた旅〟へ共に没入できるという、バリアフリーな特長も客層を広げているようだ。
来年には「浮世絵」
現在のコンテンツは、4500年前のエジプトやピラミッド内部に飛び込む「ホライゾン・オブ・クフ」と、マネやルノワールら巨匠が起こした美術界のムーブメントを追って1874年のパリなどを旅する「印象派画家と過ごす夜」の2本。仏XR制作会社「エクスキュリオ」の作品で、専門家の監修による緻密な考証が自慢という。
今後は全国主要都市への展開を目指しており、来年1月23日には2号館がオープン予定。名古屋鉄道系のレジャー会社と提携し、名古屋の繁華街・栄の大型商業ビル内に開く。

ただ、課題もある。約45分の体験時間に対し、料金は4千円(土休日5千円、4人以上は割引)と安くない。「一度体験すればリピーターになってもらえるが、XRの面白さを伝えるのは難しい」と大橋代表。「さまざまな手段で丁寧に魅力を発信していきたい」と気を引き締める。
シネマリープは現在、独自の作品制作を進めている。テーマは日本文化の粋の一つ、浮世絵。来年のベネチア国際映画祭などへの出展を目指し、秋ごろからイマーシブ・ジャーニーで提供する計画だ。大橋代表は「引き続き日本の歴史や文化を生かしたXR作品を作り、世界各国へ輸出していきたい」と夢を語る。
筆者:山沢義徳(産経新聞)
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