福島県の檜枝岐村は「日本一人口密度が低い村」として知られる。「秘境の村」での暮らしに迫る。
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日本一人口密度が低い福島県檜枝岐村は、ほとんどが山林で人が住めるエリアは限られている(同村提供)

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福島県の南西端に位置し新潟、群馬、栃木3県と県境を接する檜枝岐(ひのえまた)村は「日本一人口密度が低い村」として知られる。自然の宝庫・尾瀬の福島県側玄関口でもある〝秘境の村〟は、人口が500人を割り込み、65歳以上の住民が占める割合で示す高齢化率は、ほぼ40%に達している。山あいの村で〝暮らしのリアル〟に迫った。

他市に村営寄宿舎

村の面積は約390平方キロで、3月末現在の人口は479人。1平方キロにどれだけの人が住んでいるかを表す人口密度は約1・23人に過ぎず、高齢化率は39・87%だ。ちなみに東京23区の面積は檜枝岐村の約1・6倍約628平方キロで、約987万人(2025年3月1日現在)が暮らし、人口密度は1万5700人を超える。

尾瀬に足を運ぶ体力や時間がない人などに人気のミニ尾瀬公園。木道が整備されバリアフリーにも対応している=福島県檜枝岐村(芹沢伸生撮影)

村役場などがある集落部は標高1000メートル前後で、冬場は降雪量が3メートルになることもある。村に農協の販売店などはあるが、最寄りのコンビニや大手スーパーがあるのは隣の南会津町。車で約1時間かかる。村内唯一の診療所は内科と小児科だけ。総合病院で診てもらうには、やはり南会津町まで行く必要がある。

学校は小中一貫の1校で今年度は小学1年~中学3年まで46人が在籍。高校は南会津町や車で2時間以上かかる会津若松市方面に進学するケースがほとんどだ。会津若松市には村営の寄宿舎「尾瀬寮」があり、親元を離れた子供たちを支えている。

みんな顔見知り

村民の名字には特徴がある。星、平野、橘の3姓が約7割を占め、3姓全体の中での内訳は星が約6割、平野が約3割、橘が約1割という。記者が名刺交換した10人の村民は星さん6人、平野さん2人、橘さん1人、その他が1人だった。平野信之村長は「みんな下の名前で呼び合い、同姓同名の人は住む地区を入れて呼ぶ」と話す。

村の生活を聞いて記者は不便さも感じたが、村民の受け止め方は異なる。村役場総務課の星満さん(39)は「高校進学で実家を出て住んだ尾瀬寮は楽しかった。友達がみんな一緒で親のいない生活ですから」と笑い、「村外で地元の仲間と暮らして絆が強まった」と感じている。

檜枝岐歌舞伎が上演される「檜枝岐の舞台」=2024年8月、福島県檜枝岐村(土谷耕二撮影)

令和元年10月の東日本台風では河川の護岸が決壊、全村で停電し道路にも被害が出た。公民館などに50人以上が避難し、そこに満さんの家族もいた。しかし、満さんは職場を離れられない。「家族が気がかりだったが、避難所で間仕切り用のテント設置を手伝ってもらうなど助けてもらえた。非常時にみんな顔見知りだと心強い」と振り返る。

「孤独死はない」

村の商工会長で旅館を営む星俊秀さん(68)は「村自体が一つの会社のよう。就職で村を一度離れて帰ってきたときに、人付き合いの濃さを感じた」といい、「15~16人いた同級生の10人が今も一緒で楽しい」と満足そうだ。

村は約98%が林野で人が暮らす集落部は2平方キロほど。生活範囲は狭く徒歩で事足り、スクールバスもない。平野村長は「実はコンパクトシティーです」と利便性を強調する。

ただ、人口減や少子高齢化は深刻。平野村長は「正直、人を増やすのは難しい」とした上で「お年寄りも働く時代。労働力として地域に関わってもらえる流れを作りたい」と話す。必要とされれば生きる励みになると考えているからだ。その実現には「みんな知り合い」という村の特徴は強みになるに違いない。村で話を聞いた人は異口同音にこう語っていた。「孤独死はないと思う」

インタビューに答える福島県檜枝岐村の平野信之村長=村役場(芹沢伸生撮影)

福島県檜枝岐村への交通手段 会津鉄道・野岩鉄道の「会津高原尾瀬口」から約47キロ、車で1時間10分ほど。東北道の西那須野塩原IC(インターチェンジ、栃木県那須塩原市)から約90キロ、車で2時間強。磐越道・会津若松IC(福島県会津若松市)から約100キロ、車で約2時間半。最寄りの駅やICからアクセスに時間がかかるため〝秘境感〟は強いが、東京都庁から檜枝岐村役場までの直線距離は約150キロで意外と近い。

筆者:芹沢伸生(産経新聞)

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