梶山弘志経済産業相が7月3日、二酸化炭素(CO2)を多く排出する老朽化した石炭火力発電所について、2030年度までに段階的な休廃止を促す方針を表明した。
日本国内には140基の石炭火力があり、このうち旧式で環境性能が低い発電所は114基にのぼる。このうち9割程度が休廃止の対象になる。
地球温暖化の防止に向け老朽設備を削減するのは妥当である。だが、発電コストが安い石炭火力は主力電源に位置づけられる。その技術を維持し向上させるため、環境性能の高い石炭火力については着実に建設する必要がある。
電力は暮らしや産業を支える基盤である。その安定供給を図るためには、安全性を確認した原発の活用も含め、安定電源の確保に努めることが重要だ。
梶山氏は3日の記者会見で、老朽石炭火力について「フェードアウトの仕組みをつくる」と述べた。近く設ける有識者会議で具体策を検討し、年内に結論を出す考えだ。日本では東京電力の福島第1原発事故後、石炭火力への依存度が高まっており、温室効果ガスの排出削減に向けて石炭依存の引き下げにつなげるのが狙いだ。
梶山氏は同時に「日本は資源の少ない国であり、電源のベストミックスが必要だ。一つ一つの電源を放棄できない」とも語った。環境性能が高い石炭火力の新設は引き続き認める方針を表明したのは当然である。
石炭火力は発電出力の増減がしやすく、天候などで発電量が左右される再生可能エネルギーの調整電源としての役割も高まっている。安易な脱石炭は、再生エネの普及にも影響を与えかねない。
温室ガスの排出削減を盛り込んだ「パリ協定」の発効を受け、欧州を中心にして脱石炭の動きが強まっている。石炭大国のドイツも38年までに石炭火力の全廃を打ち出した。日本もこうした国際的な潮流に対応する形で温暖化の防止に貢献する。
石炭火力の休廃止は、来年にも改定する政府の「エネルギー基本計画」にも盛り込む。現行計画にも老朽火力の削減を盛り込んでいるが、休廃止の期限を明示して実効性を高める。
地球温暖化を防ぐには温室ガスを排出しない原発の活用も不可欠だ。基本計画の改定では原発の新増設も明示する必要がある。
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2020年7月7日付産経新聞【主張】を転載しています