新型コロナウイルス感染拡大に伴う営業・外出自粛を受けて売り上げが激減した飲食店に対し、ITを活用した新サービスや国の規制緩和による側方支援が始まった。飲食店は持ち帰りメニューの販売に力を入れたり、客席を間引いたりしながら、「3密」状態を回避する営業に努めるが、自粛期間中に失った収入を取り戻すことは容易ではない。新型コロナの感染防止と経済活動が並走する「ウィズコロナ」の時代を迎え、飲食の提供以外に収入の柱を持つことなど、「新しい生活様式」への対応が鍵となる。
6月6日に開業した東京メトロ日比谷線の新駅「虎ノ門ヒルズ駅」に直結する虎ノ門ヒルズビジネスタワーの飲食店街「虎ノ門横丁」。創業70年の老舗やミシュランの星を獲得した名店など計26店舗が、よりリーズナブルな価格帯で料理を振る舞う。ここでは、出入り口に設置されたカメラや画面を活用し、来場者による混雑を避けるため、定員を超えた場合に入場制限を実施する仕組みを備えている。
虎ノ門ヒルズの開発を手掛ける森ビルによると、カメラを通して来場者に発熱があるかどうかを確認する。入退場者数も把握し、画面には場内の滞留人数が表示される。来場客が集中すると防災センターに警告が通知され、警備員が出入口で入場制限を実施する流れだ。
無料通信アプリ「LINE」にある虎ノ門横丁の公式アカウントを事前に追加しておくと、入場制限が実施された際に整理券が発行される。順番が近づくか、制限が解除されるとLINE上に通知される。人と人との接触を極力避けながら、行列を作らずに入場できる仕組みだ。
多くの飲食店は混雑を避けるため、座席数を減らし、客席の間に仕切りを設けるなど、追加的な対策を講じている。森ビルが導入した入場制限システムは、飲食店のこうした負担を軽減する効果が期待できそうだ。
虎ノ門横丁に出店する中国料理店「赤坂璃宮」のオーナーシェフ、譚彦彬氏は「お客さまの交通整理を任せられることはとても良い。交通整理は自分たちにはできないから」と話した。
新型コロナの感染拡大後、真っ先に影響を受けたのは全国の飲食店だった。感染拡大に伴う入国制限を受け訪日外国人客は激減し、国や地方自治体による外出自粛の要請で仕事上の会食の機会も減少した。そんな中、飲食店が本業の飲食収入とは別の収入源を確保できるよう、新しいビジネスを提案する動きが出始めている。
空中に立体映像(ホログラム)を映し出す機械「3D Phantom(ファントム)」の開発会社社長の大貫誠氏は、この機械を電子広告として活用することに期待している。
ファントムは、LEDライトが埋め込まれた長細い基板が高速回転することで、インターネット回線を通じて送られた映像データを基に作成されたホログラムが宙に浮かび上がるように見せる仕掛けだ。
国や自治体によるデジタルサイネージ(電子看板)導入に向けた助成金を活用することができるため、問い合わせ事業者のほとんどが助成金を使った上での購入を検討しているという。
大貫氏は、飲食店が看板として利用するだけでなく、電子広告として活用することも提案する。例えば、ファントムを設置した飲食店が、電子看板に何も表示されない所定の時間帯を広告枠として広告代理店を通じて売り出し、広告契約を獲得する構想だ。広告主には、飲食店で提供する飲料の大手メーカーなどが想定され、飲食店には広告収入という新しい収入の柱が生まれる。
店内で感染対策を呼び掛ける映像を流そうと導入を決めた飲食店もある。東京都渋谷区でバーを運営する会社社長の吉川泰氏は、来店客に対し手指消毒やマスク着用をお願いするメッセージ映像を投影して使う予定という。
吉川氏は「映像が浮かび上がる様子はお客さまの目を引くインパクトがあるので、注意喚起するアイテムとしてとても良い」と期待を示した。
AI(人工知能)搭載の警備システムを展開するホワイトボード(東京都千代田区)が開発したシステムでは、店内の混雑状況を自動的に検知し、店員がいなくても音声と映像で来店客を誘導することが可能という。店員の業務負担を増やさずに来店客に安心して入店できる目安を示すことで、効率的に混雑を回避しながら誘客することが期待できる。
国土交通省は6月から、飲食店が軒先の歩道などを活用して営業できるよう、道路の「占用許可」の基準を緩和した。11月末までの限定措置で、店舗周辺の清掃に協力すれば占用料は全額免除される仕組みだ。テラス席を設けたり、持ち帰りメニューの販売をしたり、3密を避けた新しい店づくりを後押しする。外食産業と他業態との連携がさらに広がりそうだ。
筆者:岡田美月(産経新聞経済本部)