韓国でまた“旭日旗騒ぎ”が話題になっている。韓国人がフィリピン人にまでいちゃもんを付け、両国のネット世界で論争になった。日本にも一部ネットなどを通じ伝えられたようだが、韓国での報道によると、ネット芸能人(?)の若いフィリピン女性の腕に赤い旭日模様の入れ墨があったことを韓国人が見とがめ、フィリピン人を非難、バカにしたことが発端だった。
韓国社会では近年、旭日旗を「日本軍国主義の象徴」とか「戦犯旗」と称して反日運動に利用する動きが目立つ。その結果、旭日旗でなくても陽光(旭日)デザインを見ただけで「日本軍国主義を連想させる。ケシカラン!」といって抗議したり非難する、奇妙な風潮になっている。
今回、韓国人に非難されたフィリピンは、先の大戦では韓国と違って日本の戦場となり大きな被害を受けたところだ。その戦争被害国に対し、韓国人が「戦争を起した日本を擁護するもの」「フィリピン人は背が低くて貧しい」「ちゃんと教育を受けていない」などとバカにしたり“お説教”を垂れたのだ。
このためフィリピン側で怒りが広がり、「朝鮮戦争に際しフィリピンは軍隊を派遣し韓国を支援した」「われわれに助けてもらった事実を忘れ、植民地支配の歴史だけを記憶しているのか」「韓国キャンセル(消去)!」など反韓的な反論や批判が起きた。
ネット論争は結局、韓国側に反省の声があがり、フィリピン側でも問題の“TikTokスター”といわれるネット芸能人が「韓国の皆さんの気分を悪くさせたとしたら申し訳ない」と謝り、一件落着となったようだ。
しかし今回の騒ぎは、韓国社会で意気揚々と繰り返される“旭日旗反日”が、国際社会でいかに突出した異様なものであるかを物語る例として興味深い。
韓国で旭日旗を「戦犯旗」として、一種の対日戦勝国気分で非難する風潮はこの10年ほどのことだ。それが海外にも“輸出”されるようになり、それを韓国メデイアは“愛国運動”としてもてはやしてきた。
たとえば英国では、韓国人留学生がランチに買ったすし弁当に旭日マークがあったため、業者に抗議して止めさせたとか、米国では在米韓国人が行きつけの銀行のビルの壁画に、旭日旗を思わせる陽光が描かれていたので撤去させたとか。
こうした旭日旗をめぐる“反日症”は一部のマニア的な反日活動家やネット世界の若い世代が中心だが、無視できないのはそれが現実の政治・外交にまで影響を与えていることだ。
2018年10月、韓国・済州島で行われた国際観艦式に際し、韓国政府は日本の自衛艦に対し艦旗の旭日旗を認めないといってきたため、日本は参加を断っている。自衛艦の旭日旗拒否は世界で韓国だけである。
それまで外交的には問題なかったのを、文在寅政権は世論迎合的に反日に利用したのだ。来たるべき東京パラリンピックの金メダルのデザインに、世界で唯一、文句をいってきたのも韓国の公式体育団体である。
今回の韓国とフィリピンとのネット論争はエピソード的ではあるが、韓国世論に“旭日旗反日”の異常さを考えさせるいい機会になったかもしれない。韓国には国際的常識で訴えるしかない。
筆者:黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)
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2020年9月15日付産経新聞【緯度経度】を転載しています