iPS Cells Anti-Aging 006

iPS cells are the focus of many kinds of medical research.

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受精卵のように多様な細胞に変われる人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、山中伸弥・京都大教授が発明してから15年。再生医療や創薬への応用研究が進み、さらに変化の幅が広い「次世代型」も登場するなど目覚ましい発展が続く。最近はiPS細胞の技術を応用し、体の能力向上や老化防止を実現できる可能性も見えてきた。

 

 

胎盤の細胞も作製可能に

 

平成18年に登場したiPS細胞は、生物の皮膚や血液から採取した細胞に特殊な遺伝子を導入し、多様な細胞に変化・成長できる受精卵のような状態に「初期化」して作製する。

 

卵子と精子が出合い受精卵になると、内部に胎盤のもとになる細胞ができる。さらに子宮に着床すると胎盤を形成し、母体から胎児に酸素や血液を供給する。iPS細胞の状態は着床後の受精卵に近い。そのため着床前の受精卵の状態が必要な胎盤は作れなかった。

 

だが、最近は初期化の工夫で着床前の受精卵に近い次世代型が作れるようになった。これを使って京都大の研究チームは今月、胎盤の大本になる細胞を作ることに世界で初めて成功したと発表した。

 

次世代型で胎盤の異常が原因とされる不妊症などの病気を再現すれば、原因解明に役立つ可能性がある。また、変化できる細胞の向き・不向きがないとみられるため「全能性」に一歩近づいたとされ、応用の可能性がさらに広がりそうだ。

 

 

新型コロナ対策にも応用

 

iPS細胞から作った細胞や組織を移植し治療する再生医療も、臨床応用の研究が数多く進んでいる。目の病気での展開が早く、理化学研究所や神戸アイセンター病院は平成26年以降、3種の病気の患者に網膜の細胞を移植。大阪大も、角膜細胞の移植を実施した。

 

このほか、パーキンソン病患者に神経細胞(京都大)、再生不良性貧血の患者に血小板(同)、重症心不全患者に心筋シート(大阪大)、頭部のがんの患者に免疫細胞(千葉大)を移植する手術も既に行われた。

 

新型コロナウイルスの対策にも役立っている。京都大などは今月、iPS細胞を使い治療薬候補を発見したと発表した。人のiPS細胞に既存薬500種を投与し、新型コロナと感染の仕組みが同じだが安全なウイルスの侵入を防げるか確認。骨粗鬆(こつそしょう)症の薬や血糖降下剤の一部に有為な効果があることを突き止めた。

 

課題はコストだ。細胞を備蓄・供給している京都大のiPS細胞研究財団によると、健康な人の血液を採取しiPS細胞を作るには約4千万円かかる。移植用に各種の細胞に変化させるのは1人分で6千万~1億円。全て手作業で膨大な時間が必要なためだ。財団は製造の自動化や効率化を急ぎ、令和7年ごろには作製から変化までで約300万円に下げたいとしている。

 

 

体内の細胞を直接改変も

 

体にはウイルスなどの侵入を防ぐ免疫という機能があり、人ごとに型が違う。移植するiPS細胞にも多様な免疫型があり、体と細胞の型が合致しないと炎症などの拒否反応が生じる。財団では複数の免疫型の細胞を用意しているが、それでも日本人の40%しか型が合わない。

 

そこで財団は昨年、遺伝子を自在に切り張りするゲノム編集技術でiPS細胞の免疫型を決める遺伝子を破壊する取り組みを開始。12個の遺伝子を破壊すればほぼ世界中の人に拒否反応が出ないといい、来年の供給開始を目指している。

 

また近年は体内の細胞に直接、遺伝子を導入して別の細胞に改変し、病気の治療や機能回復を目指す「ダイレクト・リプログラミング」という技術への応用が注目されている。

 

既に国内外で、人の皮膚の細胞を神経細胞に、血管の細胞を腸の細胞に直接変える実験が成功。iPS細胞を介さないため、簡単で安価な病気治療ができそうだと期待が高まっている。京都大の高橋淳教授は「iPS細胞の発明後、生物の発生に対する理解が飛躍的に進み、開発された多様な細胞初期化技術が役立てられている」と指摘する。

 

SFのような話だが、運動選手の筋肉を強化して能力を高めたり、神経細胞を増やして受験生の記憶力を上げたりできる可能性も。体内の機能の衰えた細胞を新たな元気のいい細胞に作り替え、老化を防止できるようになるかもしれない。

 

筆者:伊藤壽一郎(産経新聞)

 

 

4月25日産経ニュース【クローズアップ科学】を転載しています

 

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