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電波が届きにくい山間部や離島、海上などでの通信サービスを可能にする、「空飛ぶ基地局」の構想が実現に向かっている。太陽光発電を動力として地上約20キロを飛ぶ無人飛行機に基地局機能をもたせる仕組みで、ソフトバンクなど国内の携帯電話大手が研究を開始。災害時の活用も期待され、早ければ令和5年度にも実用化される見通しだ。ただ、現状では法律上の運用ルールが決まっておらず、第5世代(5G)移動通信システムの安定運用には通信インフラも重要となるだけに、政府による環境整備が欠かせない。
ソフトバンクの子会社のHAPSモバイルは昨年9月、米ニューメキシコ州で基地局機能を持つ無人航空機「サングライダー」のテストフライトを行った。全長78メートルの機体は20時間以上を飛行。世界で初めて地上20キロの成層圏から地上へ、スマートフォンの通信方式である「LTE通信」を成功させた。
成層圏を飛ぶ基地局は地上の基地局に比べて電波が届く範囲が格段に広い。高さ40~50メートルの鉄塔に据えられる一般的な基地局のカバー範囲は直径数キロ程度だが、成層圏を飛ぶ基地局は同約200キロをカバーできる。また山間部や海上のような地上での基地局設置が難しい場所にも電波を送ることが可能。雲よりも高い成層圏は常に晴れており、機体は太陽光発電を動力として、理論上は半年程度も飛び続けられるという。
機体は複数製造され、1機が着陸すれば別の機体が空に上がってカバーする形での運用が想定されている。
ソフトバンクは5年度をめどに日照時間が長い赤道近くで、新興国のインフラ整備需要などを想定した商用化を目指す。日本国内でも災害時の通信網確保といった効果が期待され、事業化を探る考えだ。担当者は「技術的には実用段階に近い」と胸を張る。
またNTTドコモも今年2月、欧州の航空大手エアバス、フィンランドの通信機器大手ノキアと、空飛ぶ基地局に関する共同研究を行うと発表。楽天モバイルも人工衛星を使った通信ネットワークの実用化を見据えている。
昨年春からサービスの提供が開始された5Gは、従来より高い周波数を使用するため、電波の到達距離が短い。そのため多くの基地局を設置する必要があるが、僻地(へきち)や海上をカバーするのには限界もある。「空飛び基地局」は、5Gの安定的な運用に向けても期待が寄せられる。
ただ、事業展開には難しさもある。空飛ぶ基地局はいままでにない事業のため、国際的な運用上のルールが存在しない。国内での事業展開を想定しても、基地局の開設という観点では電波法、無人飛行機を成層圏で飛ばすことに関しては航空法の整備が急務だ。また、無人飛行機を低廉化・量産化することで収益性を高める努力も欠かせない。
5Gに続き、2030年代の実用化が目指されている6Gの活用に関連して、基地局整備の重要さが増していくことは確実だ。今後は政府の法制度面や技術開発支援の面での後押しの拡充の必要性も増す。
筆者:林修太郎(産経新聞経済本部)
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2021年5月16日産経ニュース【経済インサイド】を転載しています