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2050年に二酸化炭素(CO2)を含む温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする政府目標の実現に向け、CO2を排出せず、高い安全性を持つ「革新的次世代小型原子炉」が脚光を浴びている。自民党総裁選でも、新総裁の座を射止めた岸田文雄氏をはじめ複数の候補者から「SMR(小型モジュール炉)」や「小型核融合炉」の有用性を指摘する声が出された。日本がこの分野で将来リードできるか、注目される。
「今後、SMRあるいは小型核融合炉、といった技術につなげていくことが大事になる」
自民党総裁選で岸田氏は、こう語った。
同じく総裁選に出馬し、岸田新総裁の下で政調会長に就いた高市早苗氏も「これからの安定的なエネルギーということで一番近いのがSMR。(これを)安全保障上、地下に立地する」と説明。さらに「小型核融合炉開発を国家プロジェクトとする」と語り、次期エネルギー基本計画の修正を示唆した。
大手電力事業者も、「次世代軽水炉の設計の検討に加え、SMRや高温ガス炉など新型炉に関する技術的な検討を進めたい」(関西電力)とするなど、まだ先の動きとしつつ、前向きな姿勢だ。
革新的小型次世代炉の中でも、2020年代後半の実稼働に向けて動きが活発なのがSMRだ。
SMRは、原子炉全体を一つのモジュールとして生産し、現地に運搬して設置することを目指しているため、品質管理の容易化や工期短縮が図れるのが特徴。また、万一の事故時に大型炉の場合はポンプなどでの冷却が必要だが、SMRは冷却剤の自然循環などで除熱できるなど安全性が高く、ポンプなどの機器が不要な分、初期投資が少なく済み、既存炉と比べてもコスト競争力が期待できるという。
民間では日揮ホールディングス(HD)とIHIが、加圧水型軽水炉(PWR)タイプのSMRの開発を進めている米ニュースケール・パワーに出資。同社のSMRは複数のモジュールを地下プール内に設置し、万一の事故時、運転員が操作をせずとも自然炉心冷却で冷却を可能にするといった特徴を持つ。ニュースケールは、20年8月にSMRとしては初めて米原子力規制委員会の設計認証を取得。日揮HDによると、29年に米アイダホ州で同SMR発電所の運転開始を目指す米ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)が現在、建設許可申請などの準備を進めているという。
また、日立GEニュークリア・エナジー(日立GE)は、米GE日立ニュークリア・エナジー(GE日立)と共同で、出力30万キロワットの沸騰水型軽水炉(BWR)タイプのSMR『BWRX-300』を開発中で、新市場の開拓を目指す考え。三菱重工業も小型のPWRタイプのSMRの実証を目指している。
政府は、令和4年度予算の概算要求でSMRなど革新炉の技術開発に12億円を盛り込んでおり、民間の各プロジェクトの補助に充てる方針。また、7月に政府案がまとまった次期エネルギー基本計画でも「2030年までに民間の創意工夫や知恵を生かしながら、小型モジュール炉技術の国際連携による実証などを進める」としている。
もっとも、SMRの動向に詳しい日本原子力学会の田中隆則フェローは「日本は、完全に開発が出遅れており、規制も対応できていない。本気で開発を進めるならば、米国やカナダのように、国の研究機関の敷地などをSMRの建設用に確保して検証すべき」とし、予算規模に関しても「百億円規模の補助金で実機の開発を目指すべき」と政府の強力な支援が必要と指摘する。
これに対し、資源エネルギー庁担当者は「どうしても国民の理解を得ることが先決となる。(その点が解決し)研究炉などではなく、実証炉を作る方向性が固まれば、予算措置も手厚くできる」と説明する。
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一方、小型核融合炉は、プラズマを発生させてその中で核融合を起こさせる仕組み。プラズマの安定化が難しく、逆に言うと、地震など外的な要因ですぐにプラズマの発生がなくなるため安全性が高いのが特徴で、使用済み放射性廃棄物も発生しないという。
現在、日本ではベンチャー企業が25年ごろの核融合エネルギー発生を目指す米英やカナダの核融合ベンチャーへの機器納入や開発受託などを通じ、同市場に参入し、開拓が可能な状態だ。
脱原発路線を掲げた韓国も、SMR開発には力を入れる方針とされ、世界的にみると革新的次世代小型炉の分野には追い風が吹く。今後の日本の原子力政策は、新しい首相次第で方向性が変わる可能性もあるが、次世代小型炉の早期実用化は、民間任せではなく、政府がどこまで本腰を入れて取り組むかにかかっている。
筆者:那須慎一(産経新聞経済部)
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2021年10月4日産経ニュース【経済インサイド】を転載しています