慰安婦問題は「聞きたくないから」と現実逃避し、議論を封殺することでは解決しない。
米外交誌『ザ・ディプロマット(The Diplomat)』が私の寄稿記事を掲載中止したことは、誠に遺憾なことである。
彼らのツイッター投稿によれば、「当該記事は弊誌の編集基準に合致しなかったため、社内で問題に対処中だ」という。
しかし、私の記事にいったいどのような問題があるのかには言及がなく、その後編集部から何の連絡もない。
私は「慰安婦問題と反日種族主義」と題した記事において、2015年の慰安婦問題日韓合意、2021年1月と4月の韓国地裁による2つの判決、そして慰安婦に関する歴史的事実について見解を述べた。
2015年の合意に関する記述に問題があったのだろうか。今年韓国で下された2つの判決について、私は事実を歪めるようなことを書いただろうか。慰安婦に関する私の理解に誤りがあっただろうか。「強制連行」説と「性奴隷」説に対するいささかの批判に何か問題でもあるのだろうか。私の記事が掲載後何日も経ってから突如削除されたのがなぜなのか、『ザ・ディプロマット』誌からはなんの説明もないため、私には理解できない。掲載中止となった記事は短いもので、私が何らかの間違いを書いた可能性は極めて低い。よって、私はいったい何が問題だったのか、いまだにわからないままでいる。
私の寄稿記事が掲載中止された後、『ザ・ディプロマット』誌は急遽、慰安婦問題について私とは正反対の立場を取る人物の寄稿文を掲載した。編集部が至急その人物に寄稿を依頼し、彼が引き受けた形だ。これは寄稿者としての私に対する重大な侮辱である。私の記事の削除は政治的判断であり、この決定によって私の論考が無視されただけでなく、報道の権利と公正性に対する義務が無視されたのだ。
おそらく、私の記事の掲載後、『ザ・ディプロマット』誌には韓国人や他国の一部の人々から批判が寄せられ、編集部は韓国内外の左派からの攻撃を恐れたのだろう。『ザ・ディプロマット』誌はこの圧力に屈した。外部圧力に対抗する代わりに、まさに「外交的(ディプロマティック)」で臆病な対応に甘んじたのだ。
同誌の行為については大変遺憾であるが、私の声がかき消されることはない。以下は私が『ザ・ディプロマット』誌に寄稿した記事全文である。
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慰安婦問題と反日種族主義
一貫性なき地裁判決は韓国人の思考を反映している
2015年12月、韓国と日本の政府は慰安婦問題について「最終的かつ不可逆的な」解決の合意に至った。
当時の安倍晋三首相は改めて「心からおわびと反省の気持ちを表明する」と述べ、元慰安婦支援のために日本政府から10億円(108億韓国ウォン、882万米国ドル)の拠出を約束した。韓国では「和解・癒やし財団」が設立され、当時存命中だった元慰安婦45人中34人に支援金が支給された。
2017年、文在寅(ムン・ジェイン)政権は朴槿恵(パク・クネ)政権が形成した合意を事実上破棄し、その理由として「合意には元慰安婦の意思が適切に反映されなかったため」と述べた。財団にはまだ60億ウォン(510万米国ドル)の残余金があった事実にも関わらず、財団憲章は取り消され、文在寅は先の日韓合意は「真の解決」ではなかったと宣言したのである。日本政府は韓国に合意の遵守と国際法違反の是正を求めたが、韓国側はそれに対し何も行動を起こさなかった。
ソウル中央地裁:1月
2021年1月、再び爆弾が落とされた。元慰安婦12人が日本国を相手に損害賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁民事34部が原告側の訴えを認め、日本政府に対し、原告一人あたり1億ウォンの賠償金を支払うよう命じたのである。
この時、原告の多くは、一部の過去の元慰安婦が主張したのと同様に、旧日本軍に「拉致された」と訴えた。これは「強制連行説」の典型であり、裁判所はそれを額面通りに受け入れたのである。
しかしながら現在、「強制連行説」の信憑性は大きく揺らいでいる。元慰安婦の証言も時に一貫性を欠く。
著名な元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)は、最初は就職詐欺で慰安婦になったと証言したが、後に日本軍に強制連行されたという証言に変わった。さらに、李の証言は、客観的証拠を伴わない、個人的な身の上話に過ぎない。強制連行を裏付ける資料は見つかっておらず、家族からも知人からも、あるいは第三者からもその事実を証言する者は現れていない。
慰安婦問題を通じて反日運動を進めようとする者にとってのもう一つの頼みの綱は、「性奴隷説」だ。この説によれば、慰安婦は報酬を受け取らず、望んでもやめることはできず、日常生活において一切の行動の自由がなかったとされている。
判決文中の「基礎的事実関係」によると、同地裁は一貫して「性奴隷説」に依拠してきた。しかしながらこれは歴史的事実ではない。むしろ、韓国の反日種族主義メンタリティーという架空の憶測を反映しているものだ。
「慰安婦」たちは「ハイリスク・ハイリターン」の職業に従事した人々だった。中には巨額の稼ぎを得た者もあり、雇用契約期間が終わった後には多くが韓国に戻り、再就職した。
日常生活における行動が制限されたのは、軍人、民間の従業員、看護婦など、戦場で働く他の人々にとっても同様だった。結論として、慰安婦は「性奴隷」ではなく、現代の性産業労働者と根本的には変わらない「セックスワーカー」だったのである。
一国の法廷が、主権国家である他国の行為に対して裁判権を行使することはできない。たとえその行為が不法であったとしてもだ。これが「主権免除」として知られる国際慣習法の原則である。これは法廷闘争が紛争に繋がることを防止し、国際平和を促進するための措置だ。
しかし、ソウル中央地裁は日本による慰安婦の動員、維持、および管理を「人道に反する犯罪行為」と断定し、「主権免除」の例外に該当するとの判決を下した。
ソウル中央地裁:4月
今年の4月、ソウル中央地裁民事15部は、1月の民事34部とは真逆の判決を下し、韓国内外を驚かせた。
20人の元慰安婦からなる原告の訴えは、1月の裁判と事実上同一の内容だった。しかし地裁は原告の訴えを認めず、事実審議をすることなく請求を退けたのだ。同地裁はその理由として「主権免除」を挙げ、これを判決文全79ページの3分の2を割いて説明した。
同判決によると、(民事34部が判決で引用したような)「人道に対する罪」を「主権免除」の例外とみなす国際慣習法は確立されていない。また、第二次世界大戦中のドイツ軍の不法行為に関連して下されたアメリカやヨーロッパ7か国の各級裁判所、また国際司法裁判所の判決を見ると、イタリアの一部を例外として、ドイツ軍が犯した行為についても「主権免除」が認められている。
4月の判決には注目すべき重要な内容が含まれている。すなわち、法は「慰安婦被害者」に対する唯一あるいは最終的な救済手段ではなく、2015年の日韓合意が示したように「外交的合意」も代替策としてあり得ることを指摘した点だ。同判決はこのことを相当な紙幅を割いて詳細に説明している。
結局、4月の判決は、現実的に問題を解決しようとする意図とその方法を考慮した「実用的判決」であったと思われる。1月の判決は「外交には相手がいる」という常識を否定した。
日本政府は合意の粛々たる履行を求めており、今後もその立場を変えることはないだろう。日本では与野党だけでなく、国民の3分の2以上が現在の壊滅的な二国関係の責任は韓国にあると考えているからだ。
1月の判決は、反日種族主義に基づく「イデオロギー」判決だった。
4月の判決にも問題がなかったわけでは決してない。同地裁は判決の「基礎的事実関係」において「強制連行説」と「性奴隷説」を認めた。よって、どちらの判決も「根本的」な意味での問題解決ではない。
しかし我々は、今の韓国で何が主流の考え方なのかを念頭に置かなければならない。また、日本人の歴史認識を変えた出来事と、それがもたらした困難を覚えておかなければならない。
『反日種族主義』が巻き起こした旋風に見られるように、韓国における変化の種は今、芽を出しつつある。韓国は常に変化する国、「ダイナミック・コリア」である。
著者:李宇衍=イ・ウヨン(韓国・落星台経済研究所研究委員)