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北京冬季五輪の露骨な政治利用が目に余る。
開会式では、聖火リレーの最終走者を新疆ウイグル自治区出身の女子選手、ジニゲル・イラムジャンが漢民族の男子選手とともに務めた。
同自治区での人権弾圧に抗議して米英豪などが五輪を外交的ボイコットしたことに対し、民族融和を演出したのだろうが、挑発的な偽善劇としか映らなかった。
ジニゲルは5日のノルディックスキー距離複合に出場して43位に終わったが、レース後も取材陣の前に姿はみせず、翌日、国営通信の新華社が「一生心に深く刻まれるだろう」とする彼女の開会式の感想を報じた。もちろん人権問題への言及はない。中国外務省の趙立堅報道官は聖火リレーの人選に関し「新疆でジェノサイド(集団殺害)があるとの見解は世紀の噓だ」と述べた。
習近平国家主席は開会式に出席したロシアのプーチン大統領をはじめとする強権国家の首脳らと五輪外交を重ねたが、そもそもロシアは国家主導のドーピング違反による制裁中で、プーチン氏は五輪への出席も禁じられている。
「開催国首脳が招待する場合は除く」とする例外規定の適用とされるが、習氏の招待ならば明らかに反ドーピングの理念に逆行している。だが国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が習氏にこれを糺(ただ)した形跡もない。
そのバッハ氏は、中国元副首相に性的関係を強要されたと訴えた女子テニス選手の彭帥(ほうすい)さんと五輪バブル内で面会を重ね「安全」を強調した。当局管理下で自由な証言が得られるはずもなく、中国の宣伝工作に手を貸した格好だ。
国連のグテレス事務総長は習氏と会談し、バチェレ国連人権高等弁務官による新疆ウイグル自治区訪問が「信頼に足る」内容となることへの期待を表明したが、中国外務省は「目的は双方の交流と協力の促進だ」と強調した。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は李克強首相と会談し、中国側の発表によれば同氏は「WHOは起源調査の政治化に反対する」と述べたのだという。
スキーのジャンプやスケートのショートトラックなどで「失格」が続出する混乱の中、中国の政治宣伝ばかりが着実に進められている。開会前から懸念された通り、北京冬季五輪は異形の大会の様相を呈している。
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2022年2月9日付産経新聞【主張】を転載しています