トヨタ自動車の新型EV「bZ4X」(共同)
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トヨタ自動車と日産自動車が相次いで新たな電動化戦略を公表した。電気自動車(EV)についても積極的な新車投入計画を発表、世界的な潮流であるEVシフトの姿勢を鮮明にした。両社は今年、国内市場に戦略的な新型EVの投入も予定している。EVの販売が伸び悩む国内市場だが、今年は普及が進む転換点となる可能性もある。
先陣を切ったのは日産だった。昨年11月29日に発表した長期ビジョンによると今後5年間で約2兆円を投資して電動化を加速、2030(令和12)年までにEV15車種を含む23車種の新型電動車を投入するとした。
トヨタは12月14日、30年のEV世界販売台数を350万台に引き上げると発表した。トヨタは現在、年間約1千万台を販売しており、3分の1をEVとする計画だ。電動車の研究開発費、設備投資として30年までに8兆円を投資。このうち4兆円を電池を含めたEVへの投資に充て、EVのラインアップを30年までに30車種に拡大する。高級車ブランド「レクサス」については、35年までにすべてをEVとする。
「後ろ向き」前へ
自動車メーカーのEVシフトは世界的な潮流だ。ドイツのメルセデス・ベンツやスウェーデンのボルボ・カーが30年にEV専業に移行する計画を発表するなど、海外メーカーの積極姿勢が目立つ。これに対し、日本メーカーがEV戦略で出遅れていたのは確かだ。
中でもトヨタは、国・地域のエネルギー事情などに応じガソリン車も含めた全方位型の脱炭素戦略を進めており、EVに「後ろ向き」ととられることもあった。こうした評価にいらだちもあったのだろう、豊田章男社長はEV戦略発表の会見で「これで前向きでないとするなら、どうすれば前向きと評価されるのか教えてほしい」と訴えた。
EVに「後ろ向き」とされるのは、国内自動車メーカーだけではない。国内の新車市場も同様だ。昨年1~11月の乗用車販売台数(軽自動車含む)のうち、EVは0・6%。欧州ではEV比率が1割を超えている国もあるが、EVを購入の選択肢に加えている国内ユーザーはまだ多いとはいえないのが実情だ。
ただ、国内市場にも変化の兆しが出てきている。EVの新車販売台数は昨年3月から11月まで9カ月連続で増加している。半導体不足の影響でマイナスが続く新車市場の中で、EVの好調ぶりが目立つ。
快走するテスラ
販売を牽引(けんいん)している1社が米テスラだ。テスラは昨年2月、「モデル3」の価格をグレードによっては150万円以上引き下げた。テスラは国内の販売台数を公表していないが、値下げ後に輸入EVの販売は急増し、EVの全販売台数に占める輸入車比率が7割を超える月もあった。この事実は求める性能と価格が見合えば、EVを購入したいという潜在ユーザーが一定程度いることを示している。
こうした中で、日産とトヨタは今年、EV専用の車台を採用した新型EVを相次いで国内市場に投入する。日産は新型EV「アリア」の特別仕様車を今月27日から発売。3月下旬からは標準仕様車も発売する。トヨタはEV専用ブランド「bZ」シリーズの第1弾となる「bZ4X」を今年半ばに投入する。ともに人気のスポーツ用多目的車(SUV)タイプでもあり、同カテゴリーでの〝激突〟は話題を集めそうだ。
「近場の足」期待
より注目されるのは、日産と三菱自動車が来年度初頭から発売する軽自動車のEVかもしれない。軽自動車は地方を中心に人気が高く、価格が安いこともあって国内市場では4割近くを占める。両社の軽EVも国などの補助金を差し引いた実質購入価格は200万円程度になる見通しだ。
EVは1回の充電で走れる航続距離がまだ短く、充電インフラの整備が遅れていることもあって、国内で販売が伸びない理由にもなっている。両社の軽EVの航続距離も約170キロにすぎない。だが、軽自動車は「近場の足」として使われることが多く、既存EVに比べて価格を抑えることで新たなユーザーの獲得を狙っている。
世界初の量産EVは09年に発売された三菱自の「アイ・ミーブ」だ。翌10年には日産も「リーフ」で続いた。だが「アイ・ミーブ」は昨年生産を終了、「リーフ」も世界をリードするには至っていない。
国内市場にもEVのブームは訪れず、「EV不毛の地」などと揶揄(やゆ)する向きもある。ただ、補助金の増額に加え、二酸化炭素の排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」に対する意識の高まりもあって、国内ユーザーのEVへの見方は徐々に変わりつつある。
そうした中で投入される新型EVは、国内ユーザーの心をとらえることができるのか。世界市場で巻き返しを狙う国内メーカーの商品力をはかる格好のバロメーターとなる。
筆者:高橋俊一(経済部編集委員)
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2022年1月8日産経ニュース【経済プリズム】を転載しています