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拉致問題を伝えるパネル展を訪れた有本明弘さん
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時に政権に対し、厳しい言葉を投げかけることもあった。それは愛する娘との再会を望む一心から口を突く、心からの叫びと聞こえた。亡き父の思いに、日本政府は応えなくてはならない。
北朝鮮による拉致被害者、有本恵子さんの父、明弘さんが死去した。96歳だった。
恵子さんはロンドンに留学中だった昭和58年に消息を絶ち、63年に北朝鮮にいることが判明した。以来、残酷な拉致事件との長い戦いを続けてきた。
恵子さんの拉致については、よど号乗っ取り犯の元妻が関与を証言しており、両親にも直接、謝罪した。明弘さんは怒りを抑えて元妻に、証言してくれたことへの謝意を述べた。
平成14年に北朝鮮が初めて拉致を認めた際、恵子さんらは「死亡」と伝えられたが、具体的な証拠はなく、生年月日の誤りなどから「恵子は絶対に生きている」と信じなかった。
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折しも拉致被害者家族会は2月16日、令和7年の運動方針を決定し、「親の世代の家族が存命のうちに全拉致被害者の一括帰国を実現させること」と政府に要望した。
横田めぐみさんの弟で家族会代表の拓也さんは「今年の方針には政府が『タイムリミット』をより強く意識してほしいという思いを込めた」と述べた。
明弘さんの死去により、「親世代」で存命なのはめぐみさんの母で89歳の早紀江さん、ただ一人になってしまった。いよいよ残された時間は少ない。そう言わざるを得ない。
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拉致は北朝鮮の国家機関が犯した無慈悲な誘拐事件である。非は一方的に北朝鮮にある。だが被害者家族の怒りは、なすすべのないまま時間を浪費する日本政府にも向けられている。
北朝鮮を動かすには、政府と家族、国民が一体となる怒りの結集が不可欠である。その怒りが米国をはじめとする国際社会を巻き込み、北朝鮮を追い詰める。それしか解決への道筋はないはずだ。
石破茂首相は明弘さんの死去に「本当に残念だ。一日も早い被害者の帰国をあらゆる手段を使って実現させる」と述べた。だが家族会は、首相の日朝連絡事務所構想に対して反発を強めている。足元の一丸さえおぼつかないようでは、北朝鮮を動かすことはできない。
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2025年2月18日付産経新聞【主張】を転載していますShimbun
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