
アジア栄養士フォーラムで記念撮影する参加者たち(杉浦美香撮影)
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栄養士の職能団体である「日本栄養士会」が8月5、6の両日、「アジア栄養士フォーラム」を開催、アジア栄養士連盟(AFDA)と国際栄養士連盟が参加して「大阪栄養宣言2025」を採択、「栄養不良の根絶には、食料の安全保障と栄養政策が不可欠」と訴えた。
アジア各国が直面する「栄養の過多と不足の二重負荷」
気温35度を超える大阪関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンの屋外ステージで、日本を含むアジア12の地域・国の栄養士会の会長らが壇上に上がった。

クローズアップされたのは、複雑な「栄養の二重負荷」だった。
かつて、途上国は飢えによる栄養不足、経済発展している国は栄養過多による肥満という栄養課題に直面していたが、今は途上国でも加工食品などの流入で肥満や生活習慣病が問題となり、経済発展で貧富の差が拡大したり、若年女性のやせすぎや高齢者、子供が栄養不足といった「飢餓」が存在しているという。
発表で、韓国では高齢化が進み慢性疾患が増加、経済格差で社会的負担が拡大。参加者は「栄養士を適正に配置し、栄養士制度の強化と専門能力の向上」を訴えた。マレーシアでは、成人の2人に1人が肥満、6人に1人が糖尿病を抱えているが、資格を持った栄養士は1400人規模と少なく、登録栄養士の拡大を進めていることなどが報告された。
フォーラム実行委員会委員長である日本栄養士会の中村丁次会長は「それぞれの国・地域で栄養課題に取り組んでいるが、栄養士の数や成果が十分にあがっているとはいえない」と指摘した。

100年以上の歴史がある日本のジャパン・ニュートリション
中村氏に総括してもらった。
「栄養対策が大切ということは世界が認めているが、食料さえ確保できればいいとなっていないだろうか」と問題提起する。
食料の安全保障は国の政策の大きな柱だが、食料が十分でも栄養バランスを崩すし、欠乏症を起こし健康は維持できない。「食料と栄養の2つを、国の安全保障として掲げて取り組まなければならない」というメッセージを「大阪宣言」として発信したという。
日本は栄養分野のトップリーダーだ。1920年に国立栄養研究所が設立され、太平洋戦争の食料不足による飢えの苦しみの中、「栄養士法」(1947年)などが制定され、国策として栄養士制度を作り、知恵で食料不足を乗り切り復興、経済発展へとつなげた。
日本の栄養士の数は累計100万人以上、うち国家資格の管理栄養士も29万人以上おり、伝統的な食文化と栄養学で栄養改善を行う「ジャパン・ニュートリション」を展開してきた。
一方、アジアは豊かになっているが、国家資格としての栄養士が存在しない国もある。
「日本の栄養政策はサクセスストーリーといえる。人材を育成して、国家を組み立てた。アジア経済発展のスピードは日本の2倍といえるが、栄養政策は二の次にされている。飢餓から解放されるだけでは健康にならない。日本の栄養政策をモデルにしてみてはどうかと、働きかけている」と話す。
スリランカがAFDAに加盟
フォーラムに合わせて開かれたAFDAの会議で新たにスリランカの加盟が認められ、AFDAの加盟国・地域は13となった。同国の栄養士会会長のアマル・フィローズさんは加盟への喜びを示したうえで、「スリランカは栄養不足と過多の二重苦を抱えているが、法的な資格を持った栄養士は115人にすぎず、公立病院の医療に栄養士が組み込まれていない。栄養改善のために、日本をはじめAFDAの力を借りたい」と話す。
日本の協力を得て、ベトナムで管理栄養士制度の確立が進められており、スリランカに続き、ベトナムのAFDAの加盟が期待されているという。

「未来に残すべき日本の和食」
万博で、全国の47都道府県栄養士会が各々考案した「日本の未来の和食」も展示された。
ユネスコ無形文化財に登録された和食と、世界自然保護基金(WWF)が選んだ栄養価が高く、環境負荷が少なく、手頃な価格で手に入る「未来にむけての持続可能な50の食材」を組み合わせた。

新潟は、にんじん、しいたけ、荒巻さけなどの具沢山の汁もの「のっぺ」を、沖縄は、昆布を使った炒め物「クーブイリチー」など郷土食が豊かな「未来に残すべき料理」を提案した。日本栄養士会のHPで料理方法から栄養素、文化的背景などを細かく知ることができ、まさしく「日本の知恵」の発信となっていた。

日本の国際貢献の柱の一つが栄養だ。万博で、「アジアで、全ての人々を栄養の力で健康に幸せにする」ことを目標に「栄養・食がつなぐ、命輝く未来社会への一歩」の軌跡が刻まれた。
筆者:杉浦美香(Japan 2 Earth編集長)
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