日米関税交渉が決着。米側が相互関税を25%に引き上げる期日を前に税率を15%にとどめることで合意した。極めて高水準の関税を課されることは残念でならない。
Shigeru Ishiba tariff announcement

米国との関税交渉の合意について記者団の取材に応じる石破茂首相=23日午前、首相官邸(春名中撮影)

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日米関税交渉が決着した。米側が相互関税を25%に引き上げる期日とした8月1日を前に税率を15%にとどめることで合意した。日本車に課す25%の追加関税も半減し、既存関税と合わせ15%とすることになった。

最悪の事態を免れたのは確かだろう。それでもなお、第1次トランプ政権時と比べても極めて高水準の関税を課されることは残念でならない。

米国は日本にとって唯一の同盟国だ。その米国から理不尽な高関税で脅されたにもかかわらず、石破茂政権は措置を撤回させられなかった。国益を守り抜けたのかは疑問である。

合意したからといって首相が居座るのは言語道断だ。早期に退陣を表明して当然である。

米国のトランプ大統領と会談する石破首相=6月16日、カナダ・カナナスキス(内閣広報室)

措置撤回を実現できず

関税で他国に圧力をかけるトランプ大統領の独善的手法は第2次政権で歯止めがかからなくなった。日本が無関税で輸入する米国車が売れないことを一方的に日本のせいにするなど、一連の主張は受け入れがたく、事実誤認も目につく。

そもそも、1期目のトランプ政権時に日米貿易協定を結び、自動車への追加関税を課さないことなどを確認したはずなのに、トランプ氏はこの協定を反故(ほご)にするかのように振る舞う。

だからこそ石破政権は、米国の高関税措置を撤回するよう求めてきたのではなかったか。

無論、トランプ氏がこよなく愛する「関税」という手法を日本に限ってやめさせるのは難しい。現実的にはある程度の譲歩もやむを得ない面があろう。

だからといって「対米黒字を抱える国の中で最大の引き下げ幅を得られた」などと自賛する石破首相の発言にうなずくことはできない。

米国の出方がトランプ氏の判断次第なのは自明なのに、石破首相は閣僚協議に委ねるばかりで、自らがトランプ氏に直談判して局面打開につなげるという行動力をみせなかった。これでは最善を尽くしたと評価することなどできない。

石破首相は「日米両国の国益に一致する形での合意」を実現したとも語るが、日本はトランプ政権前と比べてどれほど国益を高められたというのか。

首相が重視するのは、米国の雇用を増やし、日本企業も利益を上げる対米投資拡大だ。「政府系金融機関が最大5500億ドル(約80兆円)規模の出資、融資、融資保証を提供可能にする」などと説明し、経済安全保障上の重要分野で日米が強靱(きょうじん)な供給網を築くとも強調した。

もっとも、対米投資の拡大は以前から日本企業にみられた傾向である。経済安保で日米が連携を強化するのも当たり前のことだ。むしろ、米国との約束を履行しようと、コストを度外視した対米投資に陥らないようにしなくてはならない。

臨時国会で徹底審議を

農業分野では、既存のミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で米国産のコメ輸入量を増やす。関税引き下げなどで農業を犠牲にするような内容はないというのはいい。ただし、米国産の流入拡大が米価に及ぼす影響は十分に見極めるべきだ。

日本企業にとって15%の関税は重い負担だ。それでも交渉が決着し、ようやく対米事業戦略を具体的に練り直せるようになった。大企業だけでなく下請け企業も含めて、米国の高関税政策にも揺るがぬよう、生産性の向上や新規需要の開拓などに全力を挙げたい。

記者会見で参院選の結果について説明する自民党総裁の石破茂首相=7月21日午後、党本部(今野顕撮影)

交渉の妥結を受け、政府では国内対策などが課題となる。だが、石破首相がそれを理由に政権に居座ってはならない。衆院選と参院選で自ら設定した勝敗ラインを割り込み、両院で過半数を失った首相は一日も早く退陣表明するのが責務である。

首相は23日、自民党所属の首相経験者との会談後も重ねて続投の意欲を示した。驚くべき厚顔さだ。選挙で示された民意を無視するのは容認できない。

自民の国会議員や地方組織から退陣を求める声があがっている。続投を許せば、自民は支持層から完全に見放されるのだから当たり前の反応だ。

ただし、自民や連立与党の公明党が、実際に退陣に追い込まなければ、参院選時以上に支持を失うだろう。それでは日米合意の履行も覚束(おぼつか)なくなる。自浄能力の発揮が問われている。

1日にも召集される臨時国会では、首相指名選挙の有無にかかわらず一定の日数を確保し、日米合意を巡る徹底的な審議を行う必要がある。

2025年7月24日付産経新聞【主張】を転載しています

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