英国推理作家協会は、ミステリー文学賞「ダガー賞」の翻訳部門に日本人女性、王谷晶さんの「ババヤガの夜」の英訳版を選出した。日本人への同賞の授賞は初めて。
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英ロンドンで取材に応じる2025年のダガー賞(翻訳部門)受賞者の王谷晶(おうたに・あきら)さん(右)。左は作品を翻訳したサム・ベットさん(黒瀬悦成撮影)

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英国推理作家協会(CWA)は7月3日、2025年の優れた小説に与えるミステリー文学賞「ダガー賞」の翻訳部門に日本人女性、王谷晶さんの「ババヤガの夜」の英訳版(サム・ベット訳)を選出したと発表した。日本人への同賞の授賞は初めて。

20年に発表された「ババヤガの夜」は、暴力を唯一の趣味とする女性主人公が暴力団会長の一人娘を護衛し、裏社会の闇を駆け抜けていくハードボイルド小説。21年には日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)の最終候補にも選ばれている。

CWAの審査員は「まるで漫画のように日本のヤクザの生き方を容赦なく暴力的に描くことで、異質な登場人物の深い人間性を際立たせている。厳しく無駄のない物語は独創性に富み、壮麗で奇妙な愛情物語を描いている」と評した。

王谷さんは同日深夜、英ロンドンの授賞式会場で記者団の取材に応じ、「驚いている。まだ現実感がない」としつつ、「英語圏では無名の人間の作品をたくさんの方が読んで下さって、(授賞式で)温かく迎えて頂いたことをうれしく思っています」と喜びを語った。

また「こんな栄誉は一生に一度だと思う」とした上で、「これからの作家生活を頑張って、もう一度、この舞台に来れるようになれたらうれしいと思います」と述べ、今後の創作活動に意欲を示した。

英ロンドン市内で記者団の取材に応じるダガー賞(翻訳部門)受賞者の王谷晶さん(右)(黒瀬悦成撮影)

ダガー賞については「だいぶ前に亡くなった祖父が海外ミステリーが好きで、賞のことは子供の頃から知っていた」と明かし、「海外ミステリーは祖父の思い出と強く結びついているので、もし伝えることができるのだったら一番先に祖父に伝えたかったと今思っています」と話した。

王谷さんは「私は生え抜きのミステリー作家ではない。ダガー賞を頂いてミステリー作家と思われてしまうことを危惧しています」とし、出版各社の編集者らに向け「ちゃんとした推理小説を発注して頂くと、ちょっと困るかな」と冗談交じりに語った。

王谷さんは1981年、東京都生まれ。2012年に刊行された「猛獣使いと王子様 金色の笛と緑の炎」で小説家としてデビューした。「ババヤガの夜」は初の長編小説。

ダガー賞は1955年に創設。2006年に翻訳部門が設けられ、これまで横山秀夫さんの「64(ロクヨン)」や東野圭吾さんの「新参者」、伊坂幸太郎さんの「マリアビートル」などが最終候補に残ったが、受賞には至らなかった。今年の翻訳部門の最終候補には柚木麻子さんの「BUTTER」の英訳版(ポリー・バートン訳)も選ばれていた。

筆者:黒瀬悦成(産経新聞ロンドン支局)

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