国産水上ドローンの試作機「アルファ」=神奈川県鎌倉市沖(オーシャニック・コンステレーションズ提供)
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国産水上ドローンの量産化に向け、日本郵船傘下企業とスタートアップが共同実証に向けた契約を締結したことが10月22日、分かった。水上ドローンの大量生産は世界的にほぼ例がなく、先駆的な試みだという。日本の質の高い造船技術を生かし、密漁対策や海洋開発のほか、安全保障強化などにも量産した水上ドローンを用いたい考えだ。
海上自衛隊も注目
契約を締結したのは、スタートアップ「オーシャニック・コンステレーションズ(OC)」(神奈川県鎌倉市)と日本郵船傘下の「京浜ドック」(横浜市)。
令和5年に創業したOCは国産水上ドローン開発を進め、今年8月には鎌倉市沖で試作機「アルファ」の夜間単独航行を成功させた。これらの取り組みは、安全保障上の観点から海上自衛隊も注目しているという。
一方、京浜ドックはタグボートなどの小型船舶の建造で強みを持つ。同社が建造した世界初のアンモニア燃料船「魁」は今年、日本船舶海洋工学会が主催する「シップ・オブ・ザ・イヤー」で技術特別賞を受賞した。

両社がタッグを組むことで、水上ドローンの量産化を加速させ、複数の水上ドローンを一体的に運用させる態勢の構築を図るという。契約締結を受け、京浜ドックの子安工場で、OCが11月にも完成を目指す新たな試作機「ベータ」の組み立て作業に着手。そこで得られた知見を蓄積し、量産型試作機「ガンマ」に生かしていく構えだ。
CEO「水上ドローンは日本に勝ち目ある」
海洋進出を進める中国は、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内で公船の航行を繰り返すなど東シナ海で示威行為を強める。また、日本沿岸では組織的な密漁が後を絶たず、海洋権益確保に向けた調査の強化も求められている。

京浜ドックの中村利社長は産経新聞の取材に対し、「日本の造船業の復活につなげるとともに、社会課題の解決に貢献できれば」とし、OCの本田拓馬共同最高経営責任者(CEO)は「水上ドローンは日本に勝ち目がある。量産に加えてメンテナンスの知見も培いたい」と話した。
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日本の海を常時監視へ、人員不足対策も
国産水上ドローンの量産化に向けた、新興のオーシャニック・コンステレーションズ(OC)と日本郵船傘下の京浜ドックによる提携は、中国や韓国に押されがちな造船業の巻き返しに加え、四方を海に囲まれたわが国の安全にとっても戦略的な意義を有する。
OCが目指すのは、世界初となる、多数の水上ドローンによる海洋の常時監視だ。人工知能(AI)による画像認識や、水上ドローンを群れとして制御するアルゴリズムといった先端技術が求められ、既に多くの特許を取得している。
11月にも初号機が完成する「ベータ」は、最終的に数十機を製造。続く量産型試作機「ガンマ」は、毎月10機程度から徐々に製造ペースを上げていく方針で、修繕も含めてOCの設備では限界があった。
京浜ドックとしても、水上ドローンの量産化を通じ、自動車の製造現場で見られる「モジュール化」のような合理的な手法を造船業に取り入れる契機となる。
ドローンの活用は、航空部門では米国や中国が大きくリードするが、海上部門では差が広がっていない。用途としては密漁や密輸の監視、津波の観測などに加え、安全保障面でも注目される。
特に近年は中国による積極的な海洋進出が目立つが、海上自衛隊は慢性的な人員不足に悩まされている。水上ドローンでの活動は現場の危険性に左右されにくく、省力化にもつながる。海洋国家である日本が世界に先駆けて実現する意義は大きい。
筆者:小野晋史(産経新聞)
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