動物病院を受診すれば、ノラ猫さんも医療費がかかります
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ねこから目線。には日々、さまざまな相談が寄せられます。多くは外で暮らすノラ猫さんを「放っておけない」という気持ちから始まるのですが、同時に「どうしてあげるのが正解なのか分からない」という悩みを抱えている方もたくさんおられます。
正直なところ、20年活動している私もまだ同じ問いを抱えています。
ある方は、自分が世話をしている地域猫さんたちの1匹が高齢になり、毎日ご飯の時間には来るものの、病気なのか食欲がなく、食べなくなってしまったそうです。できるなら動物病院に連れて行って、家に入れてあげたい。でも住まいはペット不可物件。通院して長期的な治療が必要だといわれても保護できる環境がない。ノラ猫さんを助けたい気持ちと、現実との間で揺れる苦しさを抱えていました。

通りすがりに衰弱した猫を見つけ、「病院に連れて行ってあげたい」と電話をくださる方もいます。しかし、医療費の負担や診断後の受け皿をどうするかまでは考えられていないことも少なくありません。話し合いの末、「何もしない」場合もあれば、保護に踏み切る方もいます。一方、勢いで保護して室内に入れたものの、人なれしていないノラ猫さんのため、治療どころか触ることもできずに病状が悪化し「助けたつもりだったのに、余計に苦しめているだけかもしれない」と泣きながら電話してこられる方もいます。
ねこから目線。の役割は、保護か放置かという二択を迫ることではありません。「その人ができる方法の中で、猫さんにとって一番良い選択」を一緒に整理して考えることだと思っています。

では、ノラ猫さんのケアをどのように考えていけばいいのでしょうか。
近年、動物の福祉を考える指標として「5つの自由」が普及してきました。①飢えと渇きからの自由②不快からの自由③痛み・負傷・病気からの自由④正常な行動を表現する自由⑤恐怖や抑圧からの自由―。これは動物福祉の基本となる考え方で、私たちも大切にしています。しかし、これらは「人に管理されている動物」に適用される概念です。家畜・展示動物・実験動物・伴侶動物(ペット)が対象で、完全な管理下にないノラ猫さんが全てを満たすことは困難です。唯一の「正解」はなく、理想と現実の間で、自分と猫さんにとっての「やれること、やれないこと」の線引きをしていく必要があります。

10年以上、数十匹の地域猫に毎日給餌するあるベテランボランティアさんは、「人為的なけが以外は積極的に治療しない。ギリギリまで外で見守り、明らかに終末期だと感じたときだけ保護して看取(みと)る」という覚悟と哲学を持っていました。
線引きをするのは決して〝薄情〟なのではなく、「命と向き合い続けるための技術」だと思っています。一方で、ノラ猫さんに自腹でTNR(捕獲、不妊手術をしたうえで元の場所に戻すこと)や給餌をする方への心ない言葉も耳にします。「せっかく捕まえたのに手術して外に戻すなんてかわいそう」「本当にかわいそうだと思っているなら、家に連れて帰ってあげてよ」などの〝かわいそう攻撃〟は、行動している人を傷つけ、活動をやめさせる力を持っています。
けれど、そんな声に負けないでほしいと切に思います。
ノラ猫との関わりには「続けられる形」での線引きが欠かせません。すべての猫を保護できる人はいませんし、完璧を求めるほど苦しくなります。大切なのは、その子との距離感を自分で決め、無理なく続けること。自分にも猫にも優しい、持続可能な関わり方こそが、最も命に寄り添った選択だと思っています。
そして、そんな命と日々向き合っている人の支えになれるような会社でありたい、と思っています。
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保護猫活動は各地で個人や団体のボランティアなどにより行われています。私が関わりのある団体さんの活動を紹介します。
NPO法人CATS WELCARE
大阪市西区と阿倍野区に保護施設兼譲渡型保護猫カフェを運営するNPO法人です。
代表は現役の小児科医で、児童虐待支援の経験から、猫を支援するにはまずその周りの人からと考え、「ねこのしあわせのために。ひとのしあわせのために。」を理念に掲げ、猫と猫に関わる人たちのしあわせを支援することを目標としています。
ここ数年、飼い主の健康や経済的な問題から飼育放棄される高齢猫の保護が増えています。一方、都会では高齢独居世帯が増えています。残された時間の少ない高齢猫と、孤独な時間を過ごす高齢者。この二者をマッチングしサポートすることで、両者に幸せをもたらすことができるような高齢者譲渡の形を模索しています。
譲渡会情報
12月14日(日)正午~午後5時、CATS WELCAREあべの店(大阪市阿倍野区三明町1丁目8-26、電話06-6654-4060)で。ケージに入れず、自然に過ごす猫たちと触れ合いながら、相性の合う子を探していただけます。
筆者:小池英梨子 立命館大学大学院応用人間科学研究科対人援助学領域修了。「ねこから目線株式会社」(大阪市)代表、「人もねこも一緒に支援プロジェクト」(NPO法人)代表。平成16年から猫の保護譲渡やTNR活動をスタート。大学院でノラ猫をテーマに「共生と共存社会のリアリティ」について研究し、29年に猫の多頭飼育崩壊など、ヒトの福祉と猫問題への並行支援が必要なケースに対応するため「人もねこも一緒に支援プロジェクト」を立ち上げる。30年に保護猫・ノラ猫専門のお手伝い屋さん「ねこから目線。」を設立。京都、福岡、沖縄にも拠点を置き、ライスワークもライフワークも猫にまみれている。

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2025年11月26日産経ニュース【ねこから目線。の現場から】を転載しています
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