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30日間の中国滞在ビザが免除になった。さっそく年末年始に中国旅行を思い立った筆者の知人が親しくしている在日中国人に話したら、「日本人はだまされやすいね。今の中国はわれわれ中国人にとっても危ないから、家族の帰国を避けているのに」とあきれられたという。
中国では蘇州市で6月、深圳市で9月に日本人学校に通う学童が刃物を持った男に襲撃された。最近の世論調査では、中国側で日本に対して良くない印象を持っていると答えた人の割合が87%余りに上った。
見逃してならないのは、冒頭発言のように日本で暮らす中国人自身が本国は危ないと認識していることだ。中国ではメディアに対する統制が強く、抗議デモ、暴動など当局に不都合な情報は一切封殺される。筆者の耳にも、「市民同士のネットでのやりとりは24時間、公安当局に監視されており、いつ公安警察に呼び出されるかわからない」「現代史に関する中国語の本を日本で出版した。中国で出版すると身の安全がやばくなる」といった声が入ってくる。こうした中国社会の閉塞(へいそく)状況は不動産バブル崩壊不況とともにひどくなっている。
トランプ砲が追い打ち
中国不安を加速させそうなのが、米国の第2次トランプ政権だ。トランプ氏は60%の対中追加関税を企図しており、その第1弾として来年1月20日の発足以降、中国からの輸入品に10%の追加関税を課すと息巻まく。中国の全輸出の国内総生産(GDP)比は19%(2023年)で、対米輸出は同2・8%に過ぎない。中国は対米直接輸出を迂回(うかい)させれば、打撃は軽微になると思うだろう。
ところが、中国経済は高関税によって根元から揺さぶられる。発券銀行である中国人民銀行による人民元資金発行が外貨に依存する中国特有の金融構造のせいだ。外貨の主力流入源は対外経常収支の黒字だが、経常収支は全面的に対米貿易黒字によって支えられる。
今年9月までの1年間の経常収支黒字は3000億ドル弱だが、対米貿易黒字は3400億ドル超に上る。「トランプ高関税砲」は対米黒字を大幅に減らすばかりではない。メキシコ、カナダなど対米迂回輸出も標的にするので、中国の経常収支黒字全体が直撃される。そうでなくても、中国リスクの高まりで外国からの対中投融資も大きく減っており、外貨の流入は細る一方だ。
共産党中央と人民銀行は長年、外貨資産の裏付けなしにカネを刷ると、人民元に対する信用が失われると恐れてきた。それでも、人民元資金発行高に対する人民銀行外貨資産の比率はこの10年間で100%台から6割前後に下がった。
グラフは同比率と対米黒字の推移である。対米黒字の減少とともに比率は下がっている。人民銀行は6割台を警戒ラインと判断しているようで、人民元資金増発は小出しで済ませている。習近平政権は金融の量的拡大を条件とする国債の大量発行と財政出動に踏み切れない。トランプ高関税砲はそこに追い打ちをかけるだろう。
筆者:田村秀男(産経新聞特別記者)
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2024年12月8日週刊フジ【お金は知っている】を転載しています
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