ブルーレイディスクの国内シェアの3割を占めるソニーグループが、BDをはじめとする光ディスクの生産終了を公表した。需要は減少の一途をたどっており、ディスクだけでなくレコーダーも、近い将来に消えてしまう懸念が消えない。
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ブルーレイディスクの販売コーナー=2月19日、東京都千代田区のビックカメラ(村山雅弥撮影)

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ブルーレイディスクの国内シェアの3割を占めるソニーグループが、BDをはじめとする光ディスクの生産終了を公表した。需要は減少の一途をたどっており、ディスクだけでなくレコーダーも、近い将来に消えてしまうのか。

録画したテレビ番組や撮影した映像を長期保存するブルーレイディスク(BD)の先行きが危ぶまれている。今年1月、国内シェアの3割を占めるソニーグループが、BDをはじめとする光ディスクの生産終了を公表。シェア1位のバーベイタムジャパン(東京)は間髪入れずに生産継続を宣言したものの、需要は減少の一途をたどっている。ディスクだけでなくレコーダーも、近い将来に消えてしまうのではという懸念は消えていない。BDは果たしてどうなるのか。

時代の終焉

「なくなると困る。他のメーカーさんが引き継いでほしい」

「長期保存できる手段がどんどんなくなり、録画を残す時代が終わろうとしているのか」

1月23日、記録媒体を扱うソニーストレージメディアソリューションズ(東京)は、BDやミニディスク(MD)などの全モデルの生産を2月で終え、後継製品は投入しないと発表。ソニーブランドに厚い信頼を置くユーザーからはSNSで悲鳴に近い声が上がり、BDそのものがなくなってしまうのではという誤解も広がった。

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台湾の光ディスク大手、CMCマグネティクス傘下のバーベイタムジャパンにも問い合わせが相次ぎ、同社は1月31日に「ブルーレイ、DVD、CDメディアを提供し続ける」とのリリースを急遽公表。不安の払拭に努めるなど、誤解の沈静化に追われた。

ソニーグループ本社

パナは2年前に撤退

シェア2位ながら、ソニーグループの撤退が与えた影響は大きい。オランダの電機メーカー、フィリップスとCDを共同開発し、1982年にプレーヤーを世界で初めて発売した同社は、BDでもパナソニックなど他メーカーとともに開発や規格化を主導し、2003年にカートリッジ付きタイプを発売して以来、多層化による容量拡大などで業界をリードしてきた。足かけ23年にわたるBDの扱いを2月で終えた理由について、同社は「市場環境や今後の市場の成長性を鑑みた。これまでご愛用いただき、心より感謝します」と説明する。

ソニーの撤退に先立ち、パナソニックも2年前の23年2月に生産を終了。国内シェア3位のマクセルは生産を08年3月末で終え、海外メーカーに生産を委託している。

需要の縮小は著しく、回復はほとんど見込めないとの見方で業界関係者は一致する。販売枚数は公表されていないが、調査会社のBCN総研によると、24年のBD販売枚数はピーク時の13年の6割程度に落ち込んだ。同総研の森英二アナリストは「この市場環境ではメーカーが撤退するのは仕方がない」と話す。

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動画配信とクラウドが打撃に

では、なぜ需要の減少に歯止めがかからないのか。

最大の要因ともいえるのは映画やドラマ、アニメ、スポーツなどのコンテンツを豊富にそろえる動画配信サービスの普及だ。「テレビ離れといわれているものの、受像機としてのテレビの需要は落ち込んでいない。地上波放送は見ないが、インターネットにつながったテレビで配信動画を視聴するというスタイルに移行している」(BCN総研の森氏)。

パナソニックが生産撤退の理由の一つに挙げた「クラウドでのデータ保存の一般化」の影響も大きい。動画や写真をインターネット上のサーバーに気軽に保存できるようになるにつれ、「光ディスクに焼いて残す」といった手間のかかる作業は敬遠され、おのずとDVDやBDは売れなくなってきた。

衰退の潮流が加速するのは、実は十数年以上前にメーカー側自身が予見していた。業界団体の日本記録メディア工業会は「ストレージ(記録の場所)がネットの中に集約される方向性が強まり、記録メディアの位置づけが極めて低下している」として、2013年3月に解散している。

ピーク時のわずか15%

「録画・再生環境の将来に不安がある。レコーダーはいつまで生産され、再生専用機が維持されるのか?」

ソニーのBD撤退では、こんな声もユーザーから上がった。電子情報技術産業協会(JEITA)によると、BDレコーダー(再生専用機を含む)の出荷台数は、ピークだった2011年の678万台と比べ、24年には約85%減の104万台にまで凋落。25年1~2月も前年同期比で2割近くの減少と衰勢は変わらず、25年通年で100万台を割り込むのは避けられそうにない。

ディスクとレコーダーは表裏一体の関係にあり、歩調を合わせるように近い将来、メーカーがレコーダーの供給をストップする可能性は否定できない。BCN総研の森氏は「テレビにハードディスクドライブ(HDD)を接続して録画するユーザーが増え、動画配信サービスにも押されてレコーダーの新製品があまり発売されない状況になっている。需要が今後増える要素はほぼなく、ひそかに生産を終了してしまう方向にあるのかもしれない」と分析する。

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「生産終了の予定はない」

メーカー側の考えはどうか。公式通販サイトで4機種を扱っているソニーグループは「販売は継続している」とだけ回答。今後の生産計画や新モデル投入に関しては「公表を差し控えさせていただく」と言及を避ける。BCNによると同社の国内シェアは約13%で3位だ。

一方、約46%でシェア首位のパナソニックは「現時点で生産終了の予定はない」と強調。新モデル2機種を今年2月に投入し、録画や放送中の番組を外出先でもスマートフォンで視聴できるサービスをアピールするなど、拡販に努める。「従来型レコーダーの需要減退は続いているが、市場での競争優位性と収益性は高まっており、市場全体の動向は注視しながらも、当社ならではのコンテンツの楽しみ方を提案し、需要の創出を図っていきたい」としている。

欠かせぬアイテム

たしかにレコーダーの需要そのものが完全になくなることはないとの見方もある。

BCN総研の森氏は「動画配信の対象とならないコンテンツもあり、『オタク』のBD需要は残っていくのではないか」と指摘。好みのタレントや声優などが出演する番組、アニメなどの動画を手元に保存し、繰り返し視聴するといったオタクの人たちの「推し活」需要には、一定の影響力がある。

ファンが広告主となって大阪メトロ御堂筋線の心斎橋駅構内に掲示された応援広告=大阪市中央区(泰道光司撮影)

パナソニックの調べでは、推し活をしている20~50代の女性の5割強が「録画機器は快適な推し活に必要なアイテム」と答えたという。実際、予約をしなくても指定したチャンネルの放送番組をまるごと録画できる機種は「推し活ユーザーを中心に好評を得ている」(同社)という。

推し活に関連した消費行動を調査する推し活総研が今年1月、15~69歳の男女約2万3000人から回答を得たアンケートでは「推し活をしている」人は約17%で、単純換算すると、国内の推し活人口は推定1400万人。また、推し活に充てる「活動費」は1人当たり年間約25万円で、推し活市場は約3兆5000億円にのぼるという。

オタクの人たちは推し活に「費用を惜しまない」ともいわれ、日本の録画文化を引き継ぐ最後の砦は「推し活」といった構図も、あながち的外れではなさそうだ。

筆者:村山雅弥(産経新聞)

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