
ウクライナ和平を巡るロシアとの協議を終えた米国の(左から)ウィットコフ中東担当特使、ルビオ国務長官、ウォルツ大統領補佐官=2月18日、サウジアラビア・リヤド(AP=共同)
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ロシアのウクライナ侵略をめぐり、停戦交渉を主導するトランプ米政権が双方に和平案を提示した。
報道によれば、ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島の領有を米国が承認すると明記し、東・南部の4州について占領地域の実効支配を認める内容という。
クリミア半島併合は、隣国への「力による現状変更」の起点である。米国がそれを承認することは、国際法違反の侵略戦争を許すに等しく、看過できない。ウクライナのゼレンスキー大統領が、半島領有を承認できないと主張したのは当然だ。
和平案の行方は、日本にとっても人ごとではない。ソ連は日本固有の領土の北方四島を昭和20(1945)年夏に侵略し、ロシアが不法占領を続けている。同様の暴挙であるクリミア半島併合を、日本が許すわけにはいかない。台湾併吞(へいどん)をもくろむ中国に、早期の軍事侵攻を促すことにもなりかねない。
和平案は、ウクライナに領土的な譲歩を強いると同時に、北大西洋条約機構(NATO)加盟を排除し、2014年以降の対露制裁の段階的解除まで盛り込んでいる。明らかに露側に有利だ。
巧妙に反応したのはプーチン大統領だった。20日のキリスト教の復活祭に合わせて30時間の停戦に応じると表明したのも、仲裁への協力をアピールしたかったのだろう。

トランプ大統領は、双方が歩み寄りを見せない場合には、仲介を打ち切る可能性を示唆したからだ。プーチン氏の態度には、侵略と制裁の長期化で兵器や人員の不足に悩む現状が透けてみえる。
ウクライナの前線では、両軍が寸土を争って、激しく戦っている。
トランプ氏は、最側近のウィットコフ中東担当特使をプーチン氏の元へ再三派遣し、ウクライナの頭越しで協議してきた。和平案に難色を示すゼレンスキー氏には「交渉に非常に有害だ」と圧力をかけた。
これでは合意に達しても、露側が東・南部4州割譲へ要求をつり上げたり、再侵攻に動いたりする危険は払拭できない。
それを抑止する意味でも、停戦後の安全の保証を担う平和維持部隊編成が急がれている。欧州や日本など西側の団結も今、問われている。
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2025年4月25日付産経新聞【主張】を転載しています
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