手話と音声をテキストに変換できるサービス「シュアトーク」=11月11日午後、東京都千代田区(鴨川一也撮影)
This post is also available in: English
耳の不自由なアスリートが競う国際スポーツ大会「デフリンピック」が、11月15日から26日まで東京を中心に開かれる。日本勢273人をはじめ約3千人の選手が、21競技で熱戦を繰り広げる。
聴覚障害者は国内だけでも約31万人いるとされる。外からは分かりづらく、「見えない障害」といわれる。応援で大会を盛り上げるとともに、聴覚障害への理解を深める機会にしたい。
4年前にさまざまな障害のある競技者がメダルを争ったパラリンピック東京大会の感動と興奮は、いまも忘れ難い。
デフリンピックは聞こえない人を意味する「デフ」と「オリンピック」を合わせた造語だ。知名度ではパラ大会に劣るが、1924年にパリで第1回が行われ、歴史はパラより長い。第25回の今回は、初めての日本開催になる。

競技のルールは健常者のルールとほぼ同じだ。ランプの点灯や旗を用いてスタートの合図を選手に伝えるなど、視覚情報を提供して競技環境を整えている。聴覚障害者の中には、体の平衡を保つのに苦労する人もいるという。団体競技では、味方同士の手話やアイコンタクトで意思疎通を図る。音のない世界だからこその見どころも多く、選手が培った競技の技術も注目のポイントだろう。
東京ではデフ大会の開催に合わせ、音声を文字に変換し投影する多言語対応のディスプレーの設置を公共施設の窓口で進めてきた。地下鉄では駅構内のアナウンスがスマートフォンで表示されるサービスもある。
先端技術を使った視覚情報の確保は、障害の有無にかかわらず暮らしやすさにつながる。今大会を通し、一人一人が持てる力と個性を生かせる取り組みが広がれば理想的だ。

日本選手団の旗手を務め、空手女子で2大会連続の2冠を狙う小倉涼(埼玉・特別支援学校坂戸ろう学園教諭)は「デフスポーツの価値が高まり、ろうの子供たちがスポーツ選手になりたいと夢を持てる機会にできればうれしい」と語る。
歓声や拍手ではなく、両手をひらひらさせて応援する「サインエール」もある。デフスポーツ独自の観戦マナーを理解した上で、観客席から選手たちの背中を押したい。全力のプレーで応えてくれよう。
◇
2025年11月12日付産経新聞【主張】を転載しています
This post is also available in: English

