警察庁は、在日米大使館や在日米軍基地を含む国内の米国関連施設の警備を強化するよう、都道府県警に指示した。警備強化の対象にはイスラエル・ユダヤ関連施設、イスラム関連施設も含まれる。米軍がイランの核施設を攻撃したことを受けて発せられた。
National Police terrorism exercise

訓練で不審者役の男を制圧する渋谷署員と警備員=6月20日午前、渋谷区シビルガーデン(長谷川毬子撮影)

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警察庁は6月22日、在日米大使館や在日米軍基地を含む国内の米国関連施設の警備を強化するよう、都道府県警に指示した。

警備強化の対象には在日イスラエル大使館などのイスラエル・ユダヤ関連施設、駐日パレスチナ常駐総代表部などのイスラム関連施設も含まれ、攻撃を企てる情報の収集にも努めるとした。

これらの指示は、米軍がイランの核施設を攻撃したことを受けて発せられた。イスラエルとイランは停戦に合意したとされるが、警備の強化を緩めるわけにはいかない。

停戦合意の行方は不確定要素を含んでいる。また、停戦を好ましくないとする急進的過激組織や単独犯が国内でテロ行為に及ぶ危険性は去っていないと判断すべきである。

イスラエルの攻撃を受けて炎上するイランの首都テヘランの石油施設(ロイター)

ここで警戒を緩めて国際テロ警備の「弱い環(わ)」とみられるようなことがあれば、日本国内がテロリストの標的となる可能性を否定できない。

前例がある。昭和63年3月21日、東京都千代田区のイスラエル大使館付近の駐車場とサウジアラビア航空事務所前で時限式の爆弾が爆発した。

今も実行犯や、爆発物の詳細は判明していない。

これと前後してクアラルンプールやシンガポール、ドイツでもサウジアラビア関連施設を狙った爆破事件が発生した。これらは一定の指示の下に各国の潜在テロリストが連携した連続国際テロ事件とみられている。

当時は、前年末からイスラエルのガザ地区で抵抗運動が過激化し、8年に及んだイラン・イラク戦争はこの年8月に停戦した。サウジアラビアは親米の立場を強固にしていた。中東が激動の渦中にあったことは、現在の情勢と酷似している。

楠芳伸警察庁長官

スリーパーセルと呼ばれる外国勢力の浸透工作員の存在は、各国で確認されている。組織的背景を持たない「ローンオフェンダー」型の犯行や、テロ行為を目的とする渡航者にも目を配らなくてはならない。国内の支援組織の動向把握も必要だ。

主要な関連施設のゲートには装甲車両や機動隊、制服警官を配備するなどの「見える警備」も有効である。

テロ警備の最大の要諦は、テロを起こさせないことだ。国内の混乱阻止に向けて、警察は気を引き締めてほしい。

2025年6月29日付産経新聞【主張】を転載しています

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