軽油の販売価格を維持・引き上げるカルテルを結んだとして、公正取引委員会は独占禁止法違反の疑いで、石油元売り最大手ENEOS系などの販売8社を強制調査した。国民生活に及ぼす影響は大きく、徹底的な解明が必要である。
Japan Fair Trade Commission headquarters in Kasumigaseki

公正取引委員会=東京・霞が関

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軽油の価格が1リットルあたり1円上がると、物流業界全体のコストは年間で167億円跳ね上がるという。それほど国民生活に及ぼす影響は大きい。

国から巨額の補助金を受ける石油業界が、自らの利益確保のためカルテルを結んで軽油価格を下げなかったとしたら、これは経済と国民に対する裏切り行為に他ならない。徹底的な解明が必要である。

軽油の販売価格を維持・引き上げるカルテルを結んだとして、公正取引委員会は独占禁止法違反の疑いで、石油元売り最大手ENEOS系などの販売8社を強制調査した。

強制調査は行政処分の前提ではなく、刑事事件化を目指し、犯則調査権限を行使して実施された。検察への刑事告発を念頭に置いているとみられる。

ENEOSのガソリンスタンド=東京都内

それほどこのカルテルが悪質だからだ。トラックやバス、建設機械などディーゼルエンジン搭載の産業車両の燃料である軽油の市場規模は大きい。カルテルが物流・建設コスト上昇の一因となった可能性がある。

容疑の8社のうち6社は5月にも、神奈川県内の運送事業者への軽油販売価格をめぐりカルテルを結んだ疑いで、公取委から立ち入り検査を受けている。再犯性と、カルテルの規模の大きさを問題視し、公取委は行政処分前提の調査では不十分と判断したのだろう。

物流を支える軽油の価格は原油価格や円相場などの影響で高い水準が続く。政府は令和4年以降、燃料価格の高騰対策として計8兆円超を投入してきたが、カルテルの影響で軽油価格の高止まりが続いた疑いがあると公取委はみており、悪質性を問題視しているもようだ。

各社は「調査に協力する」としている。だが、各社や業界はカルテル疑惑について自ら、被害者である国民に説明する義務があると心得るべきだ。

犯則調査権限の行使は4年の東京五輪談合以来だ。刑事告発すれば、カルテルの実務をした各社担当者が実行犯として訴追対象となる。だがカルテルは企業犯罪だ。企業の意思が反映した違法行為である。担当者に指示し、報告させたであろう経営層の刑事責任を解明しなければ公正さを欠く。公取委と検察は本質に切り込んでほしい。

「現場の尻尾切り」では国民の納得は得られまい。

2025年9月13日付産経新聞【主張】を転載しています

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