
異国情緒漂うジェームス邸の外観=神戸市垂水区(恵守乾撮影)
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山が海に迫るようなすり鉢状の珍しい地形の神戸市垂水区塩屋町。坂道から見渡す瀬戸内海の風景は、まさに「風光明媚(めいび)」という言葉がよく似合う。明治後半以降は、この土地を生かすように山肌に沿って異人館が建てられ、今でもその街並みは色濃く残っている。このうち最も豪勢な洋館「ジェームス邸」は、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだような雰囲気だ。異国情緒漂う洋館に足を運んだ。
広がる非日常の空間
山陽電鉄・滝の茶屋駅から坂を少し上ると、特徴的なオレンジ色の瓦屋根とクリーム色の外壁が木々の間に見え隠れする。アーチ状の中央玄関から館内に足を踏み入れると、非日常の空間が一気に広がる。約束の時間まで待たせてもらったリビングルームには、重厚感のあるソファやテーブルが並び、思わず背筋が伸びた。
ジェームス邸は、神戸で最も成功したとされる英国人貿易商のアーネスト・ウィリアム・ジェームスの自宅として昭和9年に建てられた。設計は雲仙観光ホテル(長崎県雲仙市)などを手掛けた竹中工務店の早良俊夫氏が担当した。

1万平方メートルの広大な土地に、地下1階、地上2階建ての母屋と、東屋、庭などを備える。母屋は、緩やかな勾配の瓦屋根やアーチ形の開口部などが特徴的な「スパニッシュ様式」が採用されている。
結婚式の前撮りも人気
ジェームス邸は、個人に売却されるなどした後、平成24年から結婚式場としてブライダル大手「ノバレーゼ」(東京)が運営。現在では年間約270組が結婚式を執り行い、常に予約が埋まっているという人気ぶりだ。
建設当時の姿がほぼ残っており、ダイニングルームや寝室、ゲストルームだった部屋は、新郎新婦の控室やゲストの待合室などとして使用されている。ステンドグラスや窓枠、泰山タイル(京都・泰山製陶所製の装飾タイル)、しっくいの天井など、細部までこだわりを感じる装飾からは、修繕しながら丁寧に使用してきた片鱗(へんりん)をあちこちで感じた。
美しく現存している理由について、同社の渡辺日菜さんは「途切れることなく、人が大切に使い続けてきたから」と説明する。
どこを切り取っても絵になるため、結婚式の前撮りでの利用も人気という。母屋では、クラシカルなレース仕立てのドレスとタキシードで厳かな雰囲気に。営業開始当時に増築したチャペルや披露宴会場、庭ではモダンな印象にするなど、ロケーションに合わせた衣装での撮影が可能だ。
ローストビーフのスペシャリテ
ウエディングだけでなく、ランチやディナーの営業も行っている。地元産の食材を使ったぜいたくなフレンチのコースが味わえるとあって、祝い事や記念日に訪れる人が多い。
この日は7月末までのランチコースをいただいた。初夏らしく彩り豊かで目でも楽しめるコースだ。

旬の野菜や魚介類が中心のスープや冷菜、温菜を経て、メインの登場。国産牛サーロインのローストビーフをその場でカットし、サーブしてくれる。オープン当初から人気を誇っているジェームス邸のスペシャリテ(看板料理)で、これを目当てに訪れる人も少なくない。手間ひまかけられた分厚いローストビーフを、シェリービネガーと西洋わさびの2種類のソースとともにいただくと、まさにぜいたくな味わいだ。
メインに至るまでバランスを考え抜いたメニュー構成となっており、シェフの細川洋一さんは「重くなりすぎないように、酸味や食感をプラスしてさわやかに仕上げた」と話した。
ローストビーフをスペシャリテとしているのは、ジェームスの出身地である英国の伝統料理を取り入れたいという思いから。
窓から見える美しい景色を眺めながら、故郷を思って邸宅を建てた異人たちや、その歴史に思いをはせた。
筆者:石橋明日佳(産経新聞)
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■ジェームス邸
- 営業時間:ランチ午前11時半~午後3時半(ラストオーダーは午後2時)、ディナー午後6時~9時(ラストオーダーは同7時半)。夏だけの期間限定ランチコース(全6品)5800円、ディナーコース(全7品)1万2千円など
- 定休日:水曜日、婚礼予約のある土日曜と祝日
- 問い合わせ:電話078-752-2266
- 住所:神戸市垂水区塩屋町6の28の1
- アクセス:山陽電鉄・滝の茶屋駅から徒歩7分
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