
日中外相会談冒頭であいさつする中国の王毅外相(左)=3月22日、東京都千代田区(鴨志田拓海撮影)
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これでは「戦略的互恵関係」どころか、国家間の通常の信頼関係を築くことも困難なのではないか。
石破茂首相と中国の王毅共産党政治局員兼外相の3月21日の会談を巡り、日本政府は、中国外務省の発表内容に事実と異なる記述があるとして抗議した。間違っている箇所の削除を求めたが、中国側は応じていない。
中国外務省はホームページ上の石破首相の発言を改めてもらいたい。それが確認できるまで石破首相や岩屋毅外相は王氏と会談してはならない。
中国外務省ホームページは王氏と会談した石破首相が「中国側が詳述した立場を尊重する」と述べたと記載している。

日本側は「そのような発言をした事実はない」とするが、中国外務省報道官は「国家間の交流で互いの立場を尊重するのは正常なことではないだろうか」と開き直った。
牽強付会(けんきょうふかい)の説である。
日中両国には在中邦人の拘束や尖閣諸島、台湾を巡る問題などについて、立場や見解に隔たりがある。
「中国側が詳述した立場を尊重する」との文言が日本の首相の言葉として残れば、日本が中国の言い分に従っている印象を与える。これでは日本の立場と国益が損なわれる。
会談内容の改竄(かいざん)は自国にとっても不利益だと中国外務省は知るべきだ。各国も中国要人との会談を警戒するだろう。

中国はトランプ米政権の対中圧力に直面し、日本との関係を改善したいそぶりをみせてきた。その最中に、会談内容を改竄し放置するのは不可解だ。まさか日本側の中国への反発を強め、対日関係をぎくしゃくさせたいわけではあるまい。
王氏は石破首相との会談で、「歴史問題と台湾問題で交わされた重要な政治的約束を(日本は)確実に果たさなければならない」と迫った。この「政治的約束」という言葉も一方的な牽制(けんせい)といえる。
戦後80年の年に歴史問題を持ち出し、日本に対して優位を占めたい底意があるのだろう。
日本政府は習近平中国国家主席の年内訪日を計画しているとされる。
だが、改竄の削除をはじめ中国側の実際の行動に大幅な改善がない限り、中国との関係強化は難しい。
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2025年3月30日付産経新聞【主張】を転載しています
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