
鹿児島県十島村の悪石島で震度6弱を観測した地震を受け、記者会見する気象庁の担当者=7月3日午後5時33分、気象庁
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南海トラフ巨大地震の被害を減らすため、政府の中央防災会議が新たな基本計画を策定した。最大29万8千人の想定死者数を今後10年間で8割減らす目標などを掲げている。
平成26年に始まった従来計画でも想定死者数を10年で8割減らすとしたが、実際には約2割減にとどまった。新計画で同じ轍(てつ)を踏むことは許されない。
国は、従来の減災目標が大幅な未達に終わった原因を厳しく検証し、反省点を明らかにした上で新計画に生かしてもらいたい。目標達成は、政府が国民に負うべき重大な責務である。

対策の進捗(しんちょく)状況の把握や評価が不十分だったことは否めないだろう。新計画は不定期だった進捗状況の点検を毎年行う方針に改めたほか、施策に関する数値目標を4倍に増やした。
堤防や津波避難施設の整備、住宅の耐震化など多くの課題が残っている。これらを解決する効果的な手立てを講じ、着実に具体化していく必要がある。
南海トラフ地震の対策は、政府が令和8年度の新設を目指す防災庁の最重要課題になる。目標達成に向け、司令塔として真価が問われるだろう。自治体への支援強化も求められる。
津波の死者数を減らすには、強い揺れが起きたら直ちに避難することが極めて重要だ。新計画は住民の早期避難意識を妨げている要因の調査を盛り込んだ。速やかに実施し、対策に反映させなくてはならない。

南海トラフ地震の発生間隔は100~150年程度とされるが、間隔はばらつきがある。終戦前後に起きた前回の地震は江戸末期の安政年間に起きた地震の約90年後だった。戦後80年が経過する中、次の地震が今後10年で起きても不思議はない。
新計画が見据える10年間は減災への最後のチャンスになるかもしれない。国はその覚悟で対策を加速させてもらいたい。
石破茂首相は中央防災会議で「国、自治体、企業、NPOなどさまざまな主体が総力を結集し対策を進めることが重要だ」と述べたが、何よりも問われるのは首相の決意と実行力だ。
国民も備えの重要性を自覚し、家具の固定など、できることから取り組みたい。
参院選では各党が地震などの防災強化を公約にした。国の防災戦略のあり方について実効性のある政策論争を期待する。
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2025年7月4日付産経新聞【主張】を転載しています
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