日本経済が再生に向け正念場を迎えていることを明確に物語るニュースが2024年末に飛び込んできた。自動車大手のホンダと日産自動車による経営統合交渉である。
Minister Yoji Muto METI

武藤容治経済産業相(中村智隆撮影)

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日本経済が再生に向け正念場を迎えている。そのことを明確に物語るニュースが昨年末に飛び込んできた。自動車大手のホンダと日産自動車による経営統合交渉である。

バブル崩壊後、日本経済は「失われた30年」といわれる低迷期に入った。そうした中でも世界的な競争力を維持し、日本経済を牽引(けんいん)してきたのが自動車産業だ。

エンジン技術を武器に、日本車は低燃費や高い信頼性で消費者に支持されてきた。だが、車を制御するソフトウエア技術の重要性が増している。電動化など「100年に1度」とされる自動車産業の大変革期を迎え、日本車の優位性は相対的に低下している。

会見する(左から)日産自動車の内田誠社長、ホンダの三部敏宏社長、三菱自動車の加藤隆雄社長=2024年12月23日午後、東京都中央区(三尾郁恵撮影)

変革乗り切る戦略描け

米中の新興メーカーが価格競争力や開発スピードの速さで電気自動車(EV)市場を席巻している。両社が経営統合を迫られているのは、単独では太刀打ちできないとの危機感の表れにほかならない。

既存事業の勝者が新事業への参入で後れを取ることを「イノベーションのジレンマ」という。過去に多くの企業がこの〝罠(わな)〟にはまってきた。

両社に限らず、国内自動車メーカーは、これまでの成功体験にとらわれることなく、大変革期を乗り切る大胆な戦略を描き実行に移してほしい。

問題は、自動車に続く成長産業が見当たらないことだ。

かつて世界市場で輝きを放っていた日本企業の多くが存在感を失った。日本企業の競争力の衰えは、国力低下と軌を一にする。日本経済の再生には新たな成長産業の創出が不可欠だ。

式典での記念撮影。左から4番目がラピダスの小池淳義社長(同社提供)

期待されるのは、最先端半導体の国産化を目指し、政府も支援する「ラピダス」である。昨年12月には生産に不可欠な重要装置の搬入が始まった。今年4月に試作ラインを稼働し、令和9年の量産開始に向け大きな一歩を踏み出す。

ラピダスに対する巨額の政府支援には批判もある。早期に民間主導に移行すべきは当然だが、車の自動運転などユーザー企業の具体的な用途を念頭に最先端半導体を供給できれば、国内産業に多大な波及効果を期待できる。必要であれば政府支援をためらうべきではない。

日本経済が成長軌道を取り戻すために、もう一つ欠かせないのが賃上げの継続である。

バブル崩壊後、日本経済はデフレという暗雲に覆われてきた。物価が上がらない中で、企業は利益を確保しようと賃金の上昇を抑えた。収入が増えないため、消費者は節約志向を強め、それがさらに物価の下落を招く。長きにわたり、この悪循環から抜け出せずにいた。

だが、原材料や資源価格の高止まりに円安も加わり、いまなお幅広い品目で価格の上昇が続く。物価だけをみれば、日本経済はすでにインフレ状態にあるといっていい。

中小企業の賃上げを訴えるUAゼンセンの松浦昭彦会長=2024年3月14日、東京都千代田区(福田涼太郎撮影)

中小の価格転嫁進めよ

企業が賃上げを重視する姿勢に転じたことは心強い。それでも物価変動を考慮した実質賃金は安定的に物価上昇を上回ることができずにいる。この状況を変えなければ、経済の好循環を実現できず、デフレからの完全脱却は見込めまい。

中でも重要なのは雇用の7割を占める中小企業の賃上げである。そのために、生産性向上など中小企業自らが業績改善に努めるのは当然だ。同時に原材料費や労務費など上昇した中小企業のコストを取引価格に適正に転嫁することが欠かせない。

中小企業の人手不足は深刻になっている。業績が改善していなくとも、人手確保を目的とした「防衛的賃上げ」を迫られている中小企業も少なくない。

取引企業が賃上げできずに人手不足に陥り事業継続に支障が出れば、困るのは大企業の側である。コスト転嫁を促すために政府が取引状況の監視をさらに強めることも必要になろう。

1月20日には、大幅な関税引き上げを表明しているトランプ氏が米大統領に就任する。人口減による国内市場の縮小が懸念される日本にとって、海外市場の取り込みは重要だ。関税引き上げは日本経済に大きな影響を及ぼす恐れがある。

トランプ政権の政策に翻弄されないためには、日本企業が世界的な競争力を取り戻す以外にない。民間が大胆な戦略を描き、政府がそれを支援する。官民挙げた取り組みの強化によって、日本経済の再生を確かなものにしたい。

2025年1月4日付産経新聞【主張】を転載しています

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