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米国防総省が中国の軍事力に関する年次報告書を発表し、中国が保有する運用可能な核弾頭数が600発を超えたとの見積もりを示した。1年で100発程度増えた計算だ。
2020年の報告書では保有数を200発前半とし、30年までに倍増するとみていた。従来の想定を上回る核戦力の増強が浮き彫りとなった形だ。中国は従来の「核の先制不使用」政策から「先制使用」への転換を検討しているという。
ロシアはウクライナで核の威嚇を続け、ロシアを支援する北朝鮮も核ミサイル開発を加速させる。トランプ次期政権は、核保有する専制国家が連携を強める現実も踏まえ、核戦力で日本など同盟国を防衛する「拡大抑止」の信頼性が十分かどうか、点検と強化を急いでほしい。
報告書は30年までに核弾頭が1千発を超えると予測した。中国は核戦力の現状や目標に関し秘密主義を保つが、増加のペースは一段と加速するとみるべきだ。「核弾頭の量だけでなく質も向上させた」との指摘も注意を要する。精密打撃ミサイルから大陸間弾道ミサイル(ICBM)まで運搬手段を多様化し、戦略原子力潜水艦や戦略爆撃機の攻撃手段も強化している。
中国は従来、自国が核攻撃を受けない限り核兵器を使用しない「核の先制不使用」政策をとってきた。だが、報告書は、習近平政権が紛争の過程で最初に核兵器を使用する「先制使用」を検討していると指摘した。
事実なら台湾侵攻を念頭に置いた重大な戦略転換だ。
報告書は「中国政府は台湾での軍事的敗北が中国共産党の政権維持を深刻に脅かす事態に核の先制使用を考慮する」とのシナリオを示す。米軍の介入で台湾の戦況が悪化すれば、周辺の米軍拠点を低出力核で攻撃する危険を示唆したものといえる。日本も標的になりうる。
ストックホルム国際平和研究所によると、米国は24年1月時点で5044発の核弾頭を保有し、ロシアは5580発を有する。米国はロシアの核戦力に加え、質的向上が著しい中国への同時対処が迫られている。
トランプ次期政権は対中強硬派の閣僚や高官を据えるが、核戦略の方向性は定かでない。石破茂首相は来年1月に見込まれるトランプ氏との会談で中国の核への備えを議論すべきだ。
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2024年12月23日付産経新聞【主張】を転載しています
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