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令和7年の春闘交渉に向け、連合が中小企業の賃上げ目標について「6%以上」とする方針を示した。
大企業を含めた全体では今年と同水準となる「5%以上」に据え置く。いずれも28日に開く中央委員会で正式に決定する。
中小企業の賃上げ目標を全体より1ポイント高く設定する方針を示したのは、大企業との賃金格差が広がっているためだ。
連合の傘下労組は6年春闘で、33年ぶりとなる平均5・10%という高水準の賃上げを達成した。だが、組合員300人未満の中小労組に限ると賃上げ率は4・45%にとどまり、目標を下回った。連合の芳野友子会長は、会見で「大手との格差が広がった。是正をしっかりとしていきたい」と述べた。
そのためには、生産性向上など中小企業自らが業績改善に努めるのは当然だ。同時に原材料費や労務費などで上昇した中小企業のコストを取引価格に適正に転嫁することが欠かせない。中小企業庁が今年3月末までの半年間の取引状況を調査したところ、19・8%が全く転嫁できていなかった。
業績が改善していないにもかかわらず、人手確保を目的とした「防衛的賃上げ」を迫られている中小企業も多い。取引企業が賃上げできずに人手不足に陥ったり、業績悪化で設備投資が滞ったりすれば、困るのは大企業の側である。
業績が好調な大企業の中には、すでに来年度の大幅な賃上げ方針を示すところも出てきている。大企業の経営者は自社にとどまらず、中小企業が持続的に賃上げできるよう目配りしてもらいたい。政府も取引状況の監視をさらに強めることが求められる。価格転嫁を促す下請法の早期改正も必要になろう。
日本経済はデフレからの完全脱却に向け大きな岐路にある。物価変動を考慮した実質賃金は6月に27カ月ぶりに上昇に転じたものの、8、9月には再び減少した。物価上昇を上回る賃上げを継続できなければ、自律的な経済成長は期待できまい。
経団連は来春闘の経営側の指針に、大幅な賃上げの定着は企業の社会的責務であると明記する方針だ。デフレ脱却には、雇用の7割を占める中小企業が賃上げを継続できる環境が欠かせない。その認識を社会全体で共有したい。
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2024年11月10日付産経新聞【主張】を転載しています
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