Shigeru Ishiba November 29

所信表明演説を行う石破茂首相=11月29日、衆院本会議場

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石破茂首相が臨時国会で、所信表明演説を行った。

政権運営の基本方針として「国民の声を踏まえ他党にも丁寧に意見を聞き、幅広い合意形成が図られるよう、真摯(しんし)に謙虚に取り組む」と語った。

首相は国民民主党が求めている「年収103万円の壁」の解消に向け、非課税枠の引き上げを表明した。少数与党に転じたことを受けての姿勢だが、前途は多難だろう。

内政とともに大事なのが外交安全保障だ。驚いたのは中国に関する首相の認識だ。先の習近平国家主席との会談に関し「かみ合った議論を行うことができた」と改めて自賛したのは理解に苦しむ。首相は中国軍の活発な活動や深圳での日本人児童殺害などを巡る懸念を「率直に提起した」と語ったが、ほぼゼロ回答だったではないか。

首脳会談を前に握手する石破首相(左)と中国の習近平国家主席=11月15日、ペルー・リマ(代表撮影)

中国は日本人に対する短期滞在ビザ(査証)の免除措置を30日から再開すると発表した。首相は「私が指摘した」と誇ったが、そもそも中国は在留邦人を不当に拘束する国だ。最近では無差別殺傷事件も相次ぐ。喜ぶような話ではない。

首相は「主張すべきことは主張する。協力できる分野では協力する。それが国益に基づく現実的外交だ」と述べた。主張なら誰でもできる。中国の行動を実際に改めさせるのが国益だと、なぜ考えないのか。

台湾有事が懸念される中、対中抑止力を高めることが必要で、防衛力と日米同盟の強化が欠かせない。そのためにも首相とトランプ米次期大統領との会談は重要だ。首相は大統領就任前の面会は困難という理由で断られたが、トランプ氏は少なくともアルゼンチンの大統領とは会っている。引き続き早期の会談を模索すべきだ。

全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会で気勢を上げる拉致被害者家族と参加者ら=11月23日午後、東京都千代田区(岩崎叶汰撮影)

北朝鮮による拉致問題については、金正恩朝鮮労働党総書記に会談を呼び掛けなかった。安倍晋三、菅義偉、岸田文雄の歴代首相は国会演説で金氏と向き合う決意を示してきた。石破首相が会談を求めなかったことが、北朝鮮に誤ったメッセージとなった可能性がある。

憲法改正では岸田前首相は国会演説で「条文案の具体化」に言及していたが、石破首相は10月と今回の2つの所信表明演説で条文化を語らなかった。憲法改正の必要性を本気で訴えねばならない。

2024年11月30日付産経新聞【主張】を転載しています

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