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当時13歳の横田めぐみさんは昭和52年11月15日、新潟市の中学校からバドミントン部の練習を終えての帰路、北朝鮮の工作員に拉致された。
前日の14日は父、滋さんの誕生日だった。めぐみさんはお祝いに茶色のくしを贈り、翌日、姿を消した。
あれから47年の長く残酷な歳月があり、この間に、最愛の娘との再会を待ち望んでいた滋さんも亡くなった。母の早紀江さんは「言いようのない苛(いら)立ちがある。政府は本気で取り組んでほしい」と話している。
石破茂首相は拉致問題を「ひとときもゆるがせにできない人道問題」と述べた。その言葉を行動で示してほしい。
米国では、トランプ氏が激戦を制し、大統領に復帰する。前回の政権時を思い出したい。
国連総会の一般討論演説でトランプ氏は「日本の13歳の少女が拉致された。彼女はスパイの養成に利用された」「北朝鮮はすさまじい人権侵害を行っている」と非難した。めぐみさんのことだ。2度の来日では拉致被害者の家族会と面会し「心が引き裂かれた」と涙をみせた。
金正恩朝鮮労働党総書記とは2度の米朝首脳会談に臨み、拉致に言及して「顕著な進展をみせていない」と責めた。金正恩氏が言い逃れを繰り返す緊迫した場面もあったとされる。
会談後の会見でトランプ氏は拉致を取り上げた理由について聞かれ、「安倍晋三首相の最重要課題でもあるからだ」と述べた。これらはトランプ氏が一面、情の人であることを示すとともに、家族会の粘り強い働きかけや、当時の安倍首相による緊密な外交の成果といえた。
石破氏はアジア太平洋経済協力会議(APEC)などに出席するため、南米に向かった。帰国の途中でトランプ氏との会談も調整中だという。石破氏には直接会談で拉致問題への怒りを何としても共有し、トランプ氏を再び拉致問題解決への主要舞台に引き上げてほしい。それが「ひとときもゆるがせにできない」最優先課題である。
平成14年9月、訪朝した当時の小泉純一郎首相に金正日国防委員長が初めて拉致を認めて謝罪した背景には、米ブッシュ政権が北朝鮮をテロ支援国家に指定し、「悪の枢軸」と名指しした強い圧力があった。忘れてはならない歴史の教訓だ。
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2024年11月15日付産経新聞【主張】を転載しています
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