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東京電力は福島第1原子力発電所2号機の燃料デブリ1粒(0・7グラム)の試験的な初取り出しに成功した。
デブリは、平成23年3月の東日本大震災の巨大津波による原子炉事故で、高熱のウラン燃料が炉心構成とともに溶け落ちた後、固化したものだ。
数度のトラブルで遅れが出るなど作業は難航したが、放射線量の高い原子炉格納容器の底から、初めてデブリを取り出したのは前進である。
政府と東電による第1原発の廃炉計画は、事故後の40年間を3期間に分けた工程で構成されている。第1期は放射能汚染水の浄化、第2期は海洋への処理水放出の開始だった。今回のデブリ取り出しで、ついに廃炉工程・第3期のスタートラインに立った。
第3期は廃炉プロジェクトでの最大の山場である。格納容器の底などにデブリが残っているかぎり、1~3号機に流れ込む地下水がデブリに触れて新たな汚染水が生じ、それを処理水に浄化する作業に追われ続けることになるからだ。
今回、取り出されたデブリは日本原子力研究開発機構の研究所などで数カ月をかけ、放射性元素の組成をはじめとする性状が調べられる。取得データは今後のロボットアームによる本格取り出し工事のための基本情報として役立てられる。
だが、この最終工程の前途には試練の巨壁が立ちはだかる。炉心溶融で破損した3基の原子炉圧力容器や格納容器から計880トンという大量のデブリを回収しなければならない。
取り出しは遠隔操作を余儀なくされるので、目標とする令和33(2051)年の完了は困難視されている。さらには、全量回収は不可能とする声も聞こえる。こうした外部の懸念には耳を傾けるべきものがある。
政府と東電には、現工程を進めつつも、代替策であるプランBの検討に着手しておいてもらいたい。事故の規模は米スリーマイル島原発を超え、世界の原子力工学界にとっても未踏の領域なのだ。
回収デブリの処分地にも展望はない。場合によってはチェルノブイリ原発で採用された、いわゆる石棺方式も選択肢に含めるべきではないか。
安全かつ現実的な廃炉工事に世界の関心が集まっている。
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2024年11月15日付産経新聞【主張】を転載しています
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