This post is also available in: English
令和5年の自殺者のうち、全体の2割弱に自殺未遂歴があり、女性では3割弱だった。男女とも未遂から自殺まで1年以内というケースが目立つ。
当人が、事前にSOSのサインを発していたと見るべきだろう。その時点で適切な支援につなげられていれば、翻意できた可能性もある。
近しい人の様子がいつもと違う場合には、周囲が声をかけることを心掛けたい。医療機関の受診や電話相談の利用を勧めることも有効であろう。
6年版の自殺対策白書が公表された。5年の自殺者数は2万1837人だった。前年より44人減少したとはいえ、新型コロナウイルスの流行下で増加した水準を反転させるには至っていない。
日本は先進7カ国で最も自殺死亡率の高い国だ。政府は深刻さを肝に銘じ、自殺の防止に全力を挙げる必要がある。
未遂歴は若い世代で高い傾向にある。10~30代では自殺者の4人に1人だ。男性より女性の方が高く、10代女性で33・5%、20代女性で39・6%、30代女性では42・8%だった。
政府は、4年に閣議決定した「自殺総合対策大綱」に女性の自殺対策の強化を盛り込んでいる。女性、子供、ひとり親、無就業、非正規雇用など、立場の弱い人への目配りを強めていくべきだ。
女性の自殺では、妊娠中と産後1年以内に生じた「妊産婦の自殺」も課題である。5年は53人だった。
予期せぬ妊娠や貧困、家庭内暴力(DV)などが引き金になっているケースもあろう。妊娠したという悩みをひとりで抱えていたケースも考えられる。電話やメールなどで相談できる態勢を充実してほしい。
産後のうつなどで、育児を行うのに十分な環境を整えられない人もいるに違いない。虐待死で多いのは0歳0カ月の新生児だ。早期の母子支援に全力を挙げてもらいたい。
出産後2週間や1カ月の時点で、医療機関などが産後の母親の健診を行ったり、深刻な問題を抱えているとみられる母親をメンタルケアにつなげたりする取り組みも始まっている。
政府と自治体は、医療機関などと協力し、かけがえのない命を守るためのきめ細かい施策を進めてほしい。
◇
2024年11月10日付産経新聞【主張】を転載しています
This post is also available in: English