台湾有事をめぐる高市首相の国会答弁から数週間、中国側の反発は収まる気配を見せない。台湾海峡情勢に詳しい東京大学の松田康博教授は、「海上封鎖は全面侵攻に必ず先立ち、日本政府が静観するとは到底考えられない」と指摘する。
Yasuhiro Matsuda

松田康博東大教授(桑村朋撮影)

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台湾有事をめぐる高市首相の国会答弁から数週間、中国側の反発は収まる気配を見せない。

中国当局は従来通り「台湾問題は内政問題」と強調するが、東アジアの戦略地図を見渡せば、その主張とは裏腹の現実が浮かび上がる。台湾周辺の海域は、日本の経済を支える生命線だからだ。

その典型例が東シナ海の海上交通路。日本のエネルギー輸入や貿易の多くがこの狭い海域を通過しており、わずかな妨害でも甚大な影響を及ぼす可能性がある。仮に中国が台湾南方や宮古海峡への接近経路を封鎖すれば、瞬時に深刻なリスクに晒される。

台湾海峡情勢に詳しい東京大学の松田康博教授は、「海上封鎖は全面侵攻に必ず先立ち、日本政府が静観するとは到底考えられない」と指摘する。

松田氏はJAPAN Forwardのインタビューで、台湾危機の戦略的現実や今後の対中関係について語った。

主なやり取りは以下の通り。

――高市氏の「台湾有事発言」をどう評価するか?

台湾有事に対する日本の基本方針が転換したわけではない。「台湾有事は日本の有事である」という認識は目新しいものではなく、安倍晋三元首相や麻生太郎氏らも一貫して示してきた立場だ。

新たな点があるとすれば、現職首相が国会の予算審議という公式の場で細かく説明したこと。ただ、これも高市氏が意図的に踏み込んだというより、野党議員の執拗な追及に応じる中で、答弁が結果的に広がった側面がある。

――中国の激しい反発や各種措置について、どう考えるか?

中国の狙いは、可能な限り強い姿勢で応酬し、日本のみならず台湾、韓国、さらには米国に対しても明確な警告を発することにある。中国の立場からすれば、台湾は「核心的利益」にあたり、いかなる譲歩もあり得ない領域。今回の強硬な反応も、その基本姿勢と完全に軌を一にしている。

もっとも、こうした対応は今回が初めてではない。過去にも、靖国問題や尖閣諸島の「国有化」をめぐる際、同様の手法で強く反発してきた経緯がある。

石垣市の海洋調査船に近づかないよう中国海警船(右)の進路をふさぐ海上保安庁の巡視船「かびら」=2024年4月、尖閣沖で(大竹直樹撮影)

たとえば、2012年に日本政府が尖閣諸島を国有化した際、中国軍用機が尖閣周辺で異常接近を繰り返し、海軍艦艇も周辺海域で高速追跡を行った。

より最近の例としては、処理水放出に対する中国の対応が挙げられる。中国は2023年8月、日本産水産物の輸入を全面的に停止し、現在も続いている。こうした行政措置は、一度実施されると撤回が難しい。

――台湾有事が「存立危機事態」に展開する可能性は?

台湾有事の性質は一様ではない。長期にわたる計画的作戦となる場合もあれば、わずか一日で終わる事態もあり得る。状況は米軍の対応次第でも大きく変わる。

たとえば海上封鎖が行われた場合、国際海峡における航行の自由は当然確保されるべきであって、日本がこれを突破しに行ってもおかしくない。

尖閣諸島周辺とバシー海峡、宮古海峡(© Sankei/JAPAN Forward)

中国海軍がバシー海峡を封鎖すれば、極めて深刻な事態となる。日本の貿易の多くが途絶し、実質的には戦争行為に等しい。こうした状況下で、日本が傍観することは到底考えにくい。
全面侵攻が行われる前には、必ず海上封鎖が実施される。全面侵攻に至る過程にあると考えるのが一般的だ。

――軍事介入が遅れたり見送られた場合、どのような影響が想定されるか?

日本は一人で貧乏くじを引くことは避けたがる。ただ、アメリカとともに手を引けば、戦争は起こりやすくなる。

中国が台湾に対して武力を行使し、それに対して米国も日本もまったく行動を起こさないとなれば、その背景には「核保有国とは戦わない」という判断があるであろう。そうなれば、戦後国際秩序は事実上、崩壊することになる。

第一列島戦(左のハイライト)、第二列島戦(右のハイライト) (©Hudson Institute)

中国が台湾を掌握すれば、西太平洋へ進出するハードルは一気に下がる。防衛ラインは第二列島線まで後退することになる。尖閣諸島の支配権を中国が確立すれば、その影響力は東シナ海から南シナ海全域へと拡大する可能性がある。

志を同じくする国が迅速かつ的確に行動しなければ、その影響は広範に及びかねない。今日のヨーロッパを見れば明らかだ。

――今後の日中関係の行方は?

中国経済これだけ冷え切っていることを考えると、日本との比較的安定した関係を維持するインセンティブは十分ある。しかし米中の関税交渉が中国にとって有利な形で落ち着けば、日本叩きが続く可能性は高い。

11月の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、高市首相は中国側との接触を試みることすらなかった。こうした国際会議での相互回避は、当面続くとみられる。

G20サミットで首脳らの写真撮影に臨む高市早苗首相(左から2人目)と中国の李強首相(右から2人目)=11月22日、ヨハネスブルク(ロイター)

それまでさまざまな外交的アプローチを模索するとみられるが、中国は二国間会談をなお拒み続けると見込まれる。とはいえ、開催国が外国首脳との接触を全面的に避けることは、外交上きわめて不自然で困難。

もし2026年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)でも首脳会談が実現しなければ、事態は一段と深刻化し、高市政権の終盤まで対話を拒み続ける可能性もある。

聞き手:吉田賢司(JAPAN Forward記者)

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