天安門事件翌日、広場の近くで戦車の行く手を遮った男性は中国民主化運動の象徴となった。施行から5年となった香港国家安全維持法はいわば、香港に進駐した〝目に見えない戦車〟。香港にも戦車の前に立ちはだかる人々がいた。国安法の下で自由が奪われ、一国二制度が死んだ香港社会の変容ぶりを浮き彫りにする。

歯科医の李盈姿氏。右腕のタトゥーは「香港人」の証しだ=香港・九竜地区(藤本欣也撮影)
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建物を出たとき、さっと人影が動くのが視界に入った。私は路地を曲がりすぐに立ち止まった。後から来た男が前を通り過ぎた。無表情だったが目は正直だ。一瞬動いた。私が立っているとは思わなかったのだ。男の後ろ姿を見送った。
「ご苦労なこった」。苦笑いしながらも、いま会ったばかりの女性が警察当局にこれほどマークされている事実に驚かされた。そして、今度は私も監視対象になったことを知った-。
歯科医の李盈姿(えいし)(56)とは九竜地区の古びたビルの一室で会った。昨年5月、「国家安全条例」違反の疑いで逮捕され、保釈中の身だ。敬虔(けいけん)なクリスチャンでもある。
筆者:藤本欣也(産経新聞)
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2025年6月30日付産経新聞【「戦車」に立ちはだかる香港人 国安法施行5年④】より
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