東京地裁=東京・霞が関
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「ONE PIECE(ワンピース)」など人気漫画を無断で掲載する海賊版サイトに対しデータ配信サービスを提供した米IT企業に東京地裁が約5億円の賠償を命じた。
大量のデータ配信を可能にするサービスを巡り「権利侵害を幇助(ほうじょ)した」として配信業者に賠償を認めた初の司法判断という。
海賊版は創作の対価を奪う泥棒行為に等しい。その手助けは許されないことを改めて銘記すべきだ。
講談社、集英社、小学館、KADOKAWAの出版大手4社が、米IT企業「クラウドフレア」を相手取り、著作権(出版権)の侵害にあたるとして訴えていた。
問題になったのはクラウド社が提供する「コンテンツ・デリバリー・ネットワーク」(CDN)と呼ばれる配信サービスだ。これ自体はデータを一時的に複製し、大規模サーバーを使って配信し、多くの人が利用できるようにする利点がある。
一方で、多くの海賊版サイトがこのサービスを悪用し、違法コンテンツの配信を容易にしていると指摘されてきた。
東京地裁はクラウド社が、出版社から著作権侵害と通知された後もサービス提供を続けたことを「提供を停止する義務を怠った」と重くみた。海賊版サイト運営者との配信契約の際、本人確認手続きを簡略化し匿名性が確保された状況で違法行為が行われたことも問題視した。

クラウド社は「インターネットの効率、信頼性に深刻な影響を及ぼす」とし控訴する意向だというが、悪用を許していいわけはない。IT企業側はネットの利活用を進める上でも重い責任を自覚すべきだ。
海賊版サイトは出版社などが個別に削除要請などを行っても類似サイトの開設、閉鎖などを繰り返し、いたちごっこが続いてきた。ネット上でタダ読みされることで出版社や作者らの被害は甚大だ。出版社などでつくる海賊版対策団体「ABJ」によると、被害額は推計で年約8兆5000億円にも上る。
得られたはずの収入が海賊版によって奪われ、創作活動が阻害されかねない。
海賊版サイトはアクセス数によって広告で収入を得ている。海賊版の閲覧は違法行為を助長し、新たな創作の芽を摘んでいることを肝に銘じたい。
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2025年11月24日付産経新聞【主張】を転載しています
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