
安倍晋三元首相の遺影が掲げられた献花台
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優れた宰相で世界のリーダーの一人だった安倍晋三元首相が、参院選の街頭演説中にテロリストの凶弾に倒れてから7月8日で3年となる。改めて心から追悼したい。
暴力で命を奪い、言論を封じる暗殺は民主主義への挑戦であり、断じて許されないことも強調しなければならない。
昨年の衆院選大敗や石破茂内閣の支持率低迷から分かるように、政治は不安定となり危機に直面している。今こそ「安倍政治」を評価する時だ。

安倍政治の最大の特徴は、安倍氏が国家観と国家戦略を持ち、世界秩序の維持や、地域の平和と安定に果敢に取り組んだことにある。安倍氏提唱の「自由で開かれたインド太平洋」という戦略概念は、米国や欧州諸国、インド、東南アジア諸国でも広く共有されるに至った。
首相退任後も国内外で存在感と影響力の大きさは際立っていた。安倍氏が健在であることが日本の国際的地位を引き上げたのである。関税などでトランプ米大統領に世界各国は振り回されている。トランプ氏と盟友関係にあった安倍氏が存命ならと思う人は多いのではないか。
外交安全保障政策で安倍氏は左派・リベラル勢力からの猛烈な批判を覚悟の上で、安保関連法を制定し、限定的ながら集団的自衛権行使に道を開いた。これは日本の平和と国民の命を守る上で欠かせないことだった。安倍路線を踏まえ、岸田文雄前首相は防衛力の抜本的強化に踏み切った。
世界情勢はなお厳しい。石破首相は日本の安全保障を確かなものにするために、何をしなければならないのかを国民に明示し、取り組むべきなのに、それが足りない。中国、北朝鮮、ロシアという核武装した専制国家から、日本と国民を守り抜く覚悟を示してほしい。
自民党の党是である憲法改正への熱意も感じられない。家族の一体感を損ねる選択的夫婦別姓を巡っては、導入に向けた法案を採決する際、党議拘束を外すことに含みを持たせた。保守の矜持(きょうじ)はどこへ行ったのか。
自民が安倍政治の意義を理解し、前に進めない限り、岩盤支持層は戻らないだろう。
参院選の真っただ中である。テロなどの事件を防ぎ、民主主義を守るために、警備には万全を期してもらいたい。
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2025年7月8日付産経新聞【主張】を転載しています
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