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老練の反捕鯨活動家、ポール・ワトソン容疑者(74)は、長年にわたり日本に強い興味を抱いてきた。デンマーク当局が17日、釈放する決定を下したことで、ワトソン氏は初の日本訪問が、警察の拘束下で行われることをうまく切り抜けた。
ワトソン氏は、好戦的な海の環境保護活動とソーシャルメディアでの投稿で知られている。世界的に知られている環境団体「グリーンピース」(Greenpeace)の創設メンバーでもあったが、暴力行為が原因で追放された。その後、攻撃的な海上妨害活動などで知られる団体「シーシェパード」(Sea Shepherd Conservation Society)を創設し、そこでも追放された。これにより、2022年、新たに自分の名前を冠した「キャプテン・ポール・ワトソン・ファウンデーション」(Captain Paul Watson Foundation)を設立することとなった。
グリーンランドの刑務所で5か月近く過ごした後、ワトソン氏は17日に釈放され、支援者に「日本に移送されなくてよかった」と述べた。
デンマークの検察庁長官とグリーンランド警察は日本への身柄の引き渡しに賛同したが、デンマーク法務省はワトソン氏がグリーンランドの刑務所で過ごした時間が日本での刑期から差し引かれない可能性があることを懸念していると述べた。それでも同省は、日本の司法制度が人権を保護しているとの見解を強調し、ワトソン氏の拘留中、両国が緊密な対話を続けていたと述べた。
ワトソン氏は7月21日、デンマーク自治領グリーンランドの政庁所在地ヌーク(Nuuk)に給油のために立ち寄り、日本の国際手配に基づいて拘束された。同氏は、日本の捕鯨活動を「阻止し、止める」ことを目的とした、新団体の「Kangei Maru」キャンペーンの一環として日本の海域へ向かっている途中だった。グリーンランド警察は、日本が要請し、2012年にインターポールが発行した国際逮捕手配書に基づき拘束した。過去、南極海域でシーシェパードの日本の調査捕鯨妨害キャンペーンにより、日本の捕鯨船が損傷し、乗組員が負傷したことを理由に要請していた。
身柄の引き渡し阻止
ワトソン氏は逮捕後、グリーンランドの拘置所に収監されていた。その間、弁護団は、東京での裁判を避けるためにさまざまな策略を立てていた。
海上での衝突の証拠となるビデオを投稿しようと試みたが、裁判所はこれを却下した。裁判所は現在、身柄の引き渡しの可否を検討しているのであり、有罪かどうかの判断ではないためだ。また、フランスでの政治亡命を求めたが、フランス領内にいないため却下された。
ワトソン氏はフランス国籍の取得も試みた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ワトソン氏が逮捕されるまでフランスに住んでいたことから、彼を支持する意向を示していた。
長年、日本に憧れ抱く
ワトソン氏は日本に移送されないように苦闘したが、実は長年にわたって日本に強い関心を抱いてきた。さらに、彼の日本の捕鯨関係者との長年の対立が、彼の最も活発な数々のキャンペーンを生み出す原因となっている。
1993年に出版された著書『アースフォース!』(Earthforce!)では、伝説的な日本の剣士、宮本武蔵に自分を例えている。武蔵の1648年の有名な言葉「武士は文武二道」を真似て、「地球の戦士はカメラと衝突の二道」などと記載している。
悪名高い活動家のテレビ番組がヒット
ワトソン氏がかつて創設したシー・シェパードは、南極でのキャンペーンを展開し、その活動がグローバルな名声を得るきっかけとなった。また、その活動は、ヒットしたリアリティ番組「ホエール・ウォーズ」(Whale Wars)の主題でもあった。この番組は、2008年から2015年までの7シーズンにわたって放送された。番組は、シー・シェパードの視点から撮影され、テレビクルーが同団体の船に乗り込み、活動家たちとのインタビューが長時間行われた。
同じ期間中、シー・シェパードはドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』(”The Cove”)の成功をうまく活用した。この映画は、地元の捕鯨習慣に対する痛烈な批判を描き、2010年にアカデミー賞を受賞した。
同団体は小さな漁師町、和歌山県太地町に数十人の活動家を派遣した。そこでは、地元のイルカやクジラの捕獲に抗議し、その活動を公にした。団体は自分たちのチームを「コーヴ・ガーディアンズ」(Cove Guardians)と呼んだ。「オペレーション・インフィニット・ペイシェンス」(Operation Infinite Patience=無限の忍耐作戦)などの名前の下で行われたが、団体のメンバーが観光ビザでの日本への入国を禁止されたこともあって、活動家は太地町から姿を消した。
捕鯨関係者の情け容赦ない追求
ワトソン氏に近い関係者によれば、彼は最終的に日本に身柄を引き渡されることはないと信じていたという。しかし、その可能性は依然として存在していた。
ワトソン氏は逮捕に驚いたようだ。実際、彼の逮捕を求めるインターポールの警告は、組織のウェブサイトから削除されていた。また、各国はインターポールの要請を無視することができる。ワトソン氏はその要請が出された後にも、フランスやアメリカを含む複数の国を自由に通過していた。
過去にシー・シェパードは、国際水域を通じて日本の捕鯨船を追跡しており、さまざまな国際法の解釈を根拠にしていた。しかし、今回、キャプテン・ポール・ワトソン・ファウンデーションは、日本の領海内で捕鯨船を阻止することを目的としている。
日本での捕鯨介入を継続
日本は2019年に国際捕鯨委員会(International Whaling Commission)から脱退した。それ以降、領海や排他的経済水域(EEZ)で商業目的の捕鯨を科学的根拠に基づいた枠の下で行なってる。
この行為は多くの西洋諸国では時代遅れなどと見なされているが、合法であって数百年にもわたる歴史の一部である。歴史的に、主に鯨油を目的とした世界的な捕鯨は、いくつかのクジラの種を絶滅の瀬戸際に追いやった。しかし、その後、1982年に採択された国際捕鯨モラトリアムの下でほとんどの種は回復している。今日、クジラに対する最大の脅威は、広く認識されている通り、船との衝突、漁具、そして汚染である。
この現状にも関わらず、ワトソン氏による日本の捕鯨関係者との直接的な対決は、効果を証明している。彼に共感するメディアが報道し、寄付を引き寄せる。さらに、日本は経済大国であり、世界で最も有名なブランドの本拠地であるが、日本政府は海外で自国の政策を擁護するのが非常に不得意であることが知られている。しばしば、直接的な対決を避け、代わりにソフト外交や法的な対処を選ぶ傾向がある。
林芳正官房長官は18日の記者会見で、デンマーク政府がワトソン容疑者の日本への身柄引き渡しを拒否したことに関し「遺憾であり、デンマーク側にその旨を申し入れた」と明らかにした。その上で「引き続き、法と証拠に基づいて適切に対応していく」と強調した。同氏と日本政府との〝戦い〟は続く。
ワトソン氏の「募金ビジネス」
ポール・ワトソン氏を支持する抗議活動は、東京を含む世界各地で行われてきた。和歌山県太地町のイルカ漁のシーズン開始を記念する式典では、地元当局がワトソン氏の逮捕について言及し、関連する活動に警戒を強めると述べた。彼を釈放するためのオンライン署名活動は、22万件以上の署名を集めた。
10月に東京で開かれた記者会見で、日本の捕鯨を行う共同船舶(株)の社長が業界の見解を表明した。共同船舶は、ワトソン氏が最新の「Kangei Maru」キャンペーンで標的にしようとした捕鯨船の「関鯨丸(かんげいまる)」を所有している。
同社の社長である所英樹氏は、ワトソン氏が注目を集め、寄付金を集めるために異常な行動を取っていると述べた。「彼がやっているのは、環境問題ではなく、募金ビジネスということを世界が認識しないといけない」と所氏は記者団に語った。
シー・シェパードの弁護士フランソワ・ジメレイは、9月のJAPAN Forwardとのインタビューで、身柄の引き渡しについて「不当であり、政治的動機に基づいている」と述べた。
デンマークの国益
グリーンランドはデンマークの自治領であり、デンマークがその外交、防衛、通貨政策を管理している。最終的にはデンマーク法務省がワトソン氏の身柄を日本に引き渡さない決定した。
ただ、デンマークの自治領であるフェロー諸島も、シー・シェパードやキャプテン・ポール・ワトソン・ファウンデーションとの対立があった。フェロー諸島の住民は千年以上にわたり、地元の小型クジラやイルカの群れを捕獲してきた。彼らは「グリンダドロップ」(Grindadráp)と呼ばれる漁でクジラを海岸に追い込み、浅い水域で屠殺し、肉は地元住民に分け与えられる。
ワトソン氏らは、「オペレーション・ブラッディ・フィヨルド」(Operation Bloody Fjords)などのキャンペーンでは、グリンダドロップの公開性を利用して、血まみれの映像を世界中に録画・配信している。一方、フェロー諸島は日本との強いつながりを持っている。フェロー諸島のクラクスヴィーク町は、太地町の姉妹都市でもある。
著者:ジェイ・アラバスター(Whaling Today編集長)
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