第47代米大統領に共和党のドナルド・トランプ氏が就任した。就任演説で「米国の黄金時代が始まる」と述べ、「米国第一主義」のもと超大国の再構築を宣言した。
Donald Trump White House Jan 21

ホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領=1月21日ワシントン(ゲッティ=共同)

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第47代米大統領に共和党のドナルド・トランプ氏が就任した。就任演説で「米国の黄金時代が始まる」と述べ、「米国第一主義」のもと超大国の再構築を宣言した。

世界最強の軍再建を約束し「われわれの力はあらゆる戦争を阻止する。怒り狂い、暴力的で、予測不能な世界に新たな団結の精神をもたらす」と訴えた。各地の紛争終結と抑止に意欲を示したトランプ氏の指導力をまずは期待したい。

過去への憧憬(しょうけい)と未来への楽観が交ざった約30分の演説は同盟国として評価すべき点、懸念すべき点が混在している。

ウクライナで功焦るな

トランプ氏は米軍の「唯一の任務」は「米国の敵を倒すことだ」とし、「勝利した戦いだけでなく、終結させた戦争、巻き込まれることのない戦争によって成功は測られる」と述べた。念頭にあるのは近年の米国の抑止力後退だろう。

バイデン前政権下で物価上昇分を差し引いた国防費は減り続け、アフガニスタンからの米軍撤収は弱腰な姿勢を印象付けてロシアのウクライナ侵略の呼び水となった。そのロシアと中国、イラン、北朝鮮は「反米」で結託を強めた。

欧州連合(EU)首脳会議で話すウクライナのゼレンスキー大統領=ブリュッセル(ゲッティ=共同)

トランプ氏が軍事力充実で侵略を抑止する「力による平和」を強調した点は評価できる。

一方で、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」再離脱や世界保健機関(WHO)脱退などの大統領令に署名した。自ら「常識」と呼ぶ公約の実行を急ぐが、政策転換を焦って国際社会の分断を深めることは、専制国家につけ入る隙を与える。

トランプ氏は就任直前にパレスチナ自治区ガザでの停戦合意に関与した成果に触れ、平和構築の仲裁役になると述べた。試されるのはウクライナだ。

ロシアとウクライナの間で中立的な調停者として振る舞ってはならない。領土不可侵を定めた国連憲章に反するロシアとの安易な妥協は、世界秩序の原則である「法の支配」を米国が軽視するに等しい。ウクライナ向け支援を停止するなど、独善的な仲裁は控えるべきだ。

トランプ氏は中米パナマ運河を「取り戻す」と改めて表明した。北大西洋条約機構(NATO)に加盟するデンマークの自治領グリーンランド獲得には触れなかったが、メキシコ湾を「アメリカ湾」に改称するとも強調した。このような言動は、中国などの常套(じょうとう)手段に似ていると受け取られかねない。

米国のルビオ国務長官(右)と握手する岩屋外相=1月21日、米ワシントン(共同)

中国をめぐり、国務長官に承認されたルビオ上院議員は上院公聴会で「これまで直面した中で最も強力で危険な敵だ」と述べた。中国は、トランプ氏の1期目と比較にならない速度で核ミサイルを含む戦力増強を続けている。

2期目の対中政策の行方はなお不透明だが、関税を武器にした取引で中国の経済的威圧を制御する。同時に台湾併吞(へいどん)の野心には、抑止力の強化を急ぐであろう。

安定した同盟を生かせ

トランプ氏が習近平国家主席との関係を喧伝(けんでん)しても、米中が融和に向かうと早合点してはならない。最大の脅威である中国は、常に日米離間をうかがっている。その意味でも、石破茂首相は訪中を急ぐよりトランプ氏との綿密な意思疎通を通じて対米関係を固める必要がある。

ホワイトハウスで話すトランプ米大統領=1月21日(AP=共同)

トランプ氏の返り咲きで米欧関係が予断を許さぬ中、日米関係は安倍晋三元首相とトランプ氏、岸田文雄前首相とバイデン氏の蜜月を経て、安定した状態で引き継がれたはずである。その重みが分からないのか。石破氏は、一日も早い訪米を実現すべきである。

トランプ氏は記者団に、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記について「核保有国だが、うまくやれた」と発言した。北朝鮮の核・ミサイルは日米の脅威であり、核保有国と認めてはならない。拉致問題の解決にトランプ氏の支援が不可欠なことも、石破氏は訴える必要がある。

就任演説は、民主主義に基づく世界秩序を擁護する意思や、価値を共有し、守り合う同盟国の重要性には特段触れていない。そのトランプ氏に秩序の堅持と同盟国との協力関係は、米国の「黄金時代」に不可欠だと石破氏は説くべきである。

「予測不能」なトランプ氏のもとで世界は不確実性を増すだろうが、日本は萎縮する必要はない。米国と、自由で開かれた秩序を守り共に栄えていく。その主体性が問われている。

2025年1月22日付産経新聞【主張】を転載しています

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