米鉄鋼大手USスチールの買収手続きが完了したことを受けて日本製鉄の橋本英二会長が記者会見し、トランプ政権による買収承認の決め手となった米政府の「黄金株」保有の裏には、中国との競争上、政府関与の官民連携が必須となり始めた世界経済の新たな潮流があると説明した。
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記者会見に臨む日本製鉄代表取締役の橋本英二会長=6月19日午前、東京都千代田区(梶山裕生撮影)

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日本製鉄は6月19日、米鉄鋼大手USスチールの買収手続きが完了したことを受けて橋本英二会長が記者会見し、トランプ政権による買収承認の決め手となった米政府の「黄金株」保有の裏には、中国との競争上、政府関与の官民連携が必須となり始めた世界経済の新たな潮流があると説明した。

「トランプ政権の一連の対応は個別特殊なものではなく、世界共通の新たな流れを背景にしたものではないか。これが私が学んだことだ」

橋本氏は、約1年半に及んだUSスチール買収を巡る米政府との交渉をこう振り返った。

黄金株は経営上の重要事項への拒否権を持つ特殊な株式で、買収後のUSスチールの経営の足かせになると見方がある。

日鉄側から提案

だが、米政府の介入を恒久的に認める黄金株を提案したのは日鉄側だった。橋本氏は黄金株による政府との約束の内容は「ある種当たり前、実害はない」と言い切り、逆に今後の設備投資の早期実行に米政権の支援が期待できるとした。

日本製鉄本社が入るビル前の看板=東京都千代田区

冷戦後の自由貿易の拡大は、2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟した中国に大きな恩恵を与え、米国の最大の競争相手となった。中国は今や世界の鉄鋼生産でも約半分のシェアを握る。

橋本氏は、中国が産業政策で国営企業優先の度合いを強める中、USスチールの投資への監督を求めるトランプ政権の姿勢は、世界経済が、民間と市場に任せる時代から、政府と企業が戦略上の連携を強める新たな時代に変わる流れだと指摘。脱炭素も「官民が連携しないと解決できない」とした。

「極めて合理的な案件」

日鉄は141億ドル(約2兆円)での買収に加え、2028年末までに約110億ドルを追加投資する。巨額投資の回収は容易ではないが、USスチールの生産能力に対し買収額は1トン当たり約10万円。製鉄所の新設に1トン当たり20万円以上かかるインドでの投資と比べても安価だとして、橋本氏は「極めて合理的な案件だ」と述べた。

黄金株が過剰な政治介入とならず、日鉄の思惑通り対中国の連携の絆となれば、道は険しいが、乾坤一擲の買収に込めた「もう一度、世界一に復権する」という橋本氏の思いの実現も夢ではない。

筆者:池田昇(産経新聞)

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