
新緑の畝の先には残雪をかぶる富士の高嶺がそびえる。外国人が思い描く日本の象徴「富士山」と「茶畑」の競演はほんのわずかな期間だけ =静岡県富士市の今宮地区(鈴木健児撮影)
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陽光が茶畑を照らす。新芽は輝き、ウグイスの声が響く。幾何学模様を描く畝の先、残雪をかぶる富士の高嶺がそびえる。

ざっと200年前、葛飾北斎が富嶽三十六景「駿州片倉茶園ノ不二」に描いた景色でもある。

この風景を知ったのは10年以上前、出張先のカナダ・バンクーバー。カフェで抹茶ラテの広告に写真が使われていたのだ。外国人観光客が求める日本の象徴が都合よくそろう場所などあるだろうか…。静岡県出身だが思い当たらない。合成写真だと疑っていたが、調べてみると富士市にあるらしい。

取材初日は雲のせいで、間近にあるはずの富士の山影すらのぞめなかった。2日目、祈るように日の出を待っていると、あたりがうっすらと明るくなり、茶畑に陽(ひ)が差した。富士の山肌は少しずつ、青みを深めていった。

平成25(2013)年6月、富士山はユネスコの世界文化遺産に登録された。それ以降、静岡県や富士市、地元の景観保存会などが一体となって、駐車場やトイレなどの施設を整備した。

大淵二丁目ささば景観保存会の藤田好廣会長(70)は、人工物のない美しい景色を創るために地権者らとともに動いた。「世界遺産登録後、霜を防ぐ装置をたくさん撤去しました。観光客に来てもらえるように売店や撮影台もつくり、観光客は5倍ほどに増えました」と教えてくれた。

富士山観光交流ビューローの佐野佑輔主査(39)は「山梨県側と比べても富士山のPRが足りない。環境を整え、外国人を含めた多くの人に地域の魅力を知ってほしい」と話した。
夏も近づく八十八夜-。目の前に広がる茶摘み歌の情景。富士と茶畑の競演が見られるのは、わずかしかない。
筆者:鈴木健児(産経新聞写真報道局)
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