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小金門から望む中国・アモイ市の高層ビル群と台湾軍が駐留している「獅嶼」と呼ばれる小島=台湾(松本健吾撮影)

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1978年と2016年、数百隻の中国漁船が大挙して沖縄県・尖閣諸島に押しかけた。16年には、武装した数多くの中国公船が随伴していた。中国漁民の一部は、一旦有事となれば「民兵」となる。戦闘員に近い者もあれば、戦闘訓練を受けた普通の漁民もいる。

「台湾有事」になれば、戦火は尖閣諸島を始め先島諸島に及ぶ。連日、尖閣に押しかける中国海軍隷下の海警や中国民兵は、戦闘員に衣替えして、日本の護衛艦や海上保安庁巡視船に直ちに襲い掛かる。

尖閣諸島の魚釣島沖で中国海警船(中央奥)をぴったりとマークする海上保安庁の巡視船(手前2隻)=4月27日午前、沖縄県石垣市(大竹直樹撮影)

防衛出動がかかれば、海上自衛隊は、首相、防衛相の直接の戦略的指導の下で、戦闘員として戦闘行動に従事することになる。自衛のための武力行使は、国家と国家の間の武力衝突である。敵の侵略を押し返すために、敵兵力の可能な限り速やかな殲滅(せんめつ)が求められる。敵の戦闘能力を奪い屈服させる。それが戦争である。

これに対して、海上保安官は法執行官として、警職法第7条で許される正当防衛のための武器の使用ができるだけである。犯罪者とはいえ、国家が人権を有する市民に銃を向けるのであるから、厳しい制約が課せられる。だから個々の民兵から自分に銃口を向けられるまで発砲することができない。それが警職法第7条である。海自と海保の違いは、武装の軽重だけではない。

台湾有事となれば、防衛出動のかかった海上自衛隊は、中国海軍との戦闘にかかりきりになるであろう。尖閣や先島周辺で海警や民兵の面倒など見ていられないというのが海上自衛隊の本音だろう。

だからといって、そこに法執行機関である海上保安庁の巡視船を出せというのは筋違いである。法執行官を戦場に連れていくことはできない。陸上自衛隊は口が裂けても、沖縄県警を連れて来いとは言わないだろう。

中国海警の公船や民兵の乗った漁船を排除したければ、海上自衛隊がドローンなどを活用して軍事的に撃滅するのが本来のはずである。

また、「先島住民の避難」という問題がある。台湾有事勃発後は先島諸島の住民を海路で避難させるという発想自体が危険である。海上保安庁の巡視船は、防衛出動発令後は防衛相の統制下に入る。中国から見れば至極正当な軍事目標だからである。

台湾有事における海保の活動は、厳しい警職法第7条の縛りを前提に考えなければならない。海保の巡視船は、海上自衛隊が留守にする北方海域の警戒活動などに振り向けるべきである。さもなくば優秀な海保の職員が、厳しい武器使用制限がかかったまま戦場で無駄死にすることになる。

中国海警船(右)にぴったりと張り付き、徹底的にガードする海上保安庁の巡視船=4月27日午前、沖縄県石垣市(大竹直樹撮影)

筆者:兼原信克(かねはら・のぶかつ)
1959年、山口県生まれ。81年に東大法学部を卒業し、外務省入省。北米局日米安全保障条約課長、総合外交政策局総務課長、国際法局長などを歴任。第2次安倍晋三政権で、内閣官房副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長を務める。19年退官。現在、同志社大学特別客員教授。15年、フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章受勲。著書・共著に『日本人のための安全保障入門』(日本経済新聞出版)、『君たち、中国に勝てるのか』(産経新聞出版)、『国家の総力』(新潮新書)など多数。

2024年12月8日週刊フジ【日本の覚醒】を転載しています

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