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ダムや空港、橋といった公共施設を巡る「インフラツーリズム」が変貌を遂げている。これまでも巨大構造物を間近で見られたり、普段入れないような場所に入れたりする非日常性が人気を集めてきたが、構造物に映像を投影する「プロジェクションマッピング」や仮想現実(VR)などの最新技術を活用することで、さらに魅力が際立つようになった。国土交通省もインフラの役割を知ってもらう好機として取り組みを後押ししている。
昭和6~8年に発生した大規模地すべりなどの対策工事が行われている、奈良県と大阪府の県境に位置する渓谷・亀の瀬の「地すべり歴史資料室」(大阪府柏原市)。地滑りで埋没し、平成20年の対策工事中に偶然見つかった旧大阪鉄道のトンネル(明治25年完成)や、地すべりを防ぐために地中に巡らせた排水トンネルなどを事前予約制のガイドツアーで一般向けに公開している。
10月下旬に行われたツアーでは、長さ約40メートルのレンガ造りのトンネルにプロジェクションマッピングの映像が映し出され、その鮮やかさと立体感に観客から歓声が上がった。
施設は昭和61年から開館していたが、地域一帯が日本遺産に選ばれ観光客が増えたことを受け、今年3月に展示内容を充実させてリニューアル。ツアーは幅広い年代に好評で、約半年で1万人の来場者を達成した。
要因の一つが、プロジェクションマッピングだ。トンネルが天然のプロジェクターの役割を果たし、カラフルな映像は写真映えもするため、1カ月半前から予約が埋まることもある。施設を管理する国交省近畿地方整備局の田尻一朗建設専門官は「『また見たい』という人もいる。地すべりの歴史とともに映像を見てもらうことで、より理解が深まっている」と手応えを話す。
VRでのアピールも各地で活発だ。ダムや貯水池などの防災インフラは大雨時などは立ち入れないことが多いが、VRなら天候に左右されずにインフラの魅力を楽しめるからだ。
福井県大野市の九頭竜川ダム統合管理事務所は昨年、管理する2つのダムの360度映像を収めたVRを制作し、イベントで披露。ダム間近で撮影した放流の映像は「迫力がすごい」「臨場感があった」と好評を集めた。東京都建設局では令和4年から、大雨の際に神田川の水を一時的にためておく「神田川・環状七号線地下調節池」などの地下構造物をVRで巡回できるバーチャルツアーをホームページで公開。担当者は「普段見えない地下の施設を知ってもらい、現地見学会にも参加してもらえたら」と期待を寄せる。
国交省の調査によると、全国のインフラでの現場見学会は平成30年度から2年連続で489件を記録。その後、新型コロナウイルス禍で約6割にまで減少したが、4年度は前年比69件増の377件と回復傾向にある。
民間事業者によるツアーも徐々に増えてきており、地下40メートルにある洪水対策用の調整池で阿波おどりを鑑賞するイベントや、船で海上からコンビナートを巡るツアー、ダム湖を水陸両用バスで遊覧する見学会など、特徴や状況に応じた多彩な企画が出てきている。
今後鍵となるのは、地域との連携だ。ツアーやイベントでは、地元ボランティアが携わることが多いが、地方では高齢化により不足するケースもあり、担い手の掘り起こしが課題となっている。近畿でツアーづくりに取り組む担当者は「若者世代の新しい発想も取り込み、地域が主体的に関われるような企画を打ち出していきたい」と話した。
筆者:秋山紀浩(産経新聞)
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