クマの出没と深刻な人身被害が各地で相次いでいる。科学的な管理には国内のクマの生息頭数の把握が不可欠。
black bear Morioka

寺の敷地に入り込んだクマ=盛岡市

This post is also available in: English

クマの出没と深刻な人身被害が北海道から広島県までの各地で相次いでいる。

被害者数は4月から6月末までに37人に達した。統計で確認できる平成18年度以降、年間219人に上る最多の被害者を出した令和5年度の同時期に匹敵する数字である。

今年の東北地方ではツキノワグマが食べる、山中のブナの実の大凶作が予測されている。令和5年も大凶作だったので状況の似た今年は、秋に向けてクマへの十分な警戒が必要だ。

2年前の秋にはブナの不足で空腹になり、市街地に侵入する「アーバンベア」による事故が続発した。その繰り返しは何としても回避したいが、対応への難度は高い。

昨年の東北地方のブナは豊作傾向だったので、今年は子グマの数が増えているはずだ。その分、秋の食物不足は一層深刻化して、山からクマが下りてくることになりやすい。

クマの目撃情報があった女子ゴルフ、明治安田レディースの会場を見回る警察官=16日、宮城県富谷市(ゲッティ=共同)

かつては奥山と市街地の間に位置した農山村の存在がクマに生息領域の区分を知らせていたのだが、高齢化や人口減、耕作放棄などの進行で、その機能が衰退している。クマにとっては、奥山を抜けると、そこは市街地だった、ということになるのだろう。

人身被害の増加を防ぐため、環境省は昨春、クマを指定管理鳥獣に位置付けた。捕獲などに要する費用が国から都道府県に支給される。また鳥獣保護管理法の改正で、今年9月からは市町村長の判断によって市街地でも猟銃の発砲が可能になる。

だが、これらの措置は人間の生活圏で問題を起こしたクマへの現場対応であり、抜本策にはなりにくい。科学的な管理には国内のクマの生息頭数の把握が不可欠なのだが、これがしっかりつかめていないのだ。

目撃情報が相次いでいるツキノワグマ(奈良県提供)

環境省が見積もるツキノワグマの個体数は4万2千頭だ。しかし、この推定には2万2千~5万5千頭という幅があって精度に欠ける。令和5年度だけでも約7700頭を捕殺しているので、過剰駆除によって絶滅に追い込むリスクが絶えない。

まずは正確な生息数調査に予算を投じてもらいたい。それが諸対策の礎(いしずえ)だ。高過ぎた狩猟圧で九州では絶滅し、四国でも絶滅寸前だ。この轍(てつ)を踏んではなるまい。奥山でのクマは生態系の一角を担う存在である。

2025年7月25日付産経新聞【主張】を転載しています

This post is also available in: English

コメントを残す